過去の爪跡-1
「・・・・・・」
ドイルへの興味を失った葵は水色の青年の傍へ歩いていく。彼は"水持ち"と呼ばれていた。その名の通り、両手にあまるほど大きな水瓶をもち・・・その細い腕は疲労によるものだろうか、カタカタと小さく震えていた。
じっと足元を見つめている彼の目の前で立ち止まると、葵はそっと彼の手に手を重ねた。
はっとして顔をあげたその青年は驚いたように葵の瞳を見つめ、その唇は小さな言葉を紡いだ。
「・・・たすけ・・・て・・・・」
その言葉をきいた葵は目だけを動かして周りの従者たちを見やった。
靴を履いていない者、手首に縄の跡がついている者・・・ひどく怯えた目をした者たちの姿が確認できる。
「・・・たくさんの従者を連れて歩くのが権力の証なのですか・・・?」
するとドイルの側近の従者が勝ち誇ったように葵の前に立った。
「王がお心を痛める気持ちもわかりますが・・・この者たちはドイル様に恩があるのですよ」
ドイルがさらに偉ぶって続けた。
「この世界がまだ安定していない頃、うちの薬は大変貴重なものでしてねぇ?その金が払えず、先祖が残した借金のために子孫のこいつらがこうして私に奉仕してるのですよ」
(世界が安定していない頃・・・その時代のわだかまりが後世にまで・・・)
「なら・・・私が彼らを苦しめている重荷を引き受けましょう」
きたっ!!!とばかりにドイルの瞳が鋭く光った。何を要求してやろう・・・と欲望に満ち溢れた、濁った目がギラギラとしている。
「私が差し上げられるものは・・・これくらいしかありません」
そう言った葵の手元をのぞくと・・・
美しい鉱物・・・、権力者の間では宝石とよばれ高値で取引されている希少な石がいくつも握られていた。
ドイルは奪うように葵の手の平から宝石を取上げ、懐へしまった。
ため息ひとつ。
葵はドイルへ背を向け、言い放った。
「あなたの"万能薬"が二度と活躍しないよう・・・私が全力で民を守ります」
「・・・ぐっ」
瞳の温度を下げた葵の威圧感にドイルや側近の従者は言い返すことが出来ずにいた。
尻尾をまいて立ち去る彼らを見送り、葵は残された者たちへ視線をおくった。