王宮の夜-1
王宮が姿を現したその夜。
淡い輝きに包まれた王宮のテラスには葵の姿があった。王宮はその姿を隠していたものの、建物自体は最初からその場所にあり、葵のその目に飛び込んでくる風景は同じだった。
だが、いつもと違うのは今夜から周りの目があるということ。しばらくのうちは好奇の目にさらされるかもしれない。だが、共に生きてゆくならばそれも覚悟しなくてはいけない。
心の中にいる"世界の意志"は何も言わなかった。すべては葵に任せているということだろう。
その夜、葵は静かに眠りにつくことが出来た。食事や睡眠をとらなくとも葵の体がどうなるわけでもなく、気になることがあれば数日間起きていることもあったが、こうして同じように過ごしてみようと思ったのは少しでも人間に近づいてみようと考えていたからだ。
―――――・・・
真夜中が覚めた葵は、ベッドから立ち上がりゆっくりと王宮の入口へと向かった。何やら人の気配がする。
大きな扉をあけて表へ出ると・・・
小さな少年が子犬を抱えて立っていた。
よく見ると少年は薄汚れた服を着ており、靴さえ履いていない。葵をみて驚いた様子もなくキョトンとしている。
葵はかがんで少年と目線を合わせた。子犬が人懐っこく尻尾を振っている。
「・・・こんな時間にどうしたの?おうちに帰らないと・・・」
「羽の、お姉さん・・・この子、にあげる、ご飯いただけ・・・ませんか」
(たどたどしい言葉使いに身なり、まさか・・・)
葵は眉を下げて少年を抱え上げた。綺麗な蒼い髪も汚れていて体の至る所に傷がある。葵は目を閉じて癒しの光を放ち、少年と子犬を包んだ。
全ての傷が治癒され、汚れた体も浄化されてゆく。少年は身に起きた変化にはじめて驚きの表情をみせた。
葵の胸元をつかんだまま、少年は葵をじっと見つめている。葵が優しく微笑むと、その少年は安心したように頬を染めて笑った。
人のために作る料理というのは初めてで、葵は一般の家庭料理というものがわからない。とにかく、子供が好きそうなものをと肉料理や野菜などをテーブルへと並べ、子犬にはパンとミルクを差し出した。
目を輝かせる少年は、やはりスプーンやフォークを持つ手がおかしい。