その距離、縮めて-1
民と王の距離が縮まった瞬間である。
「斉条・・・また会いましょう」
そう言って葵の手が離れた。
最後にもう一度葵は東条を見つめて、声をかけた。
「東条・・・また、いつか必ず・・・」
年老いた東条に昔の若い彼の姿が重なる。優しく葵に言葉をかけられた東条が笑ったような気がした。
「葵様!!必ず会いに行きますから!!」
斉条の声が飛び立とうとする葵の背に響いた。葵は振り返り頷いた。
葵は壁を通り抜け、美しく輝く翼を広げて詰め寄った村人の頭上へ羽ばたいた。
「・・・あ、あれが・・・っっ!!」
「・・・あのお方が!!
この世界の王・・・っ!!!」
人々は惚れ惚れとした眼差しで人界の王の姿に見入っている。空間を飛び越える魔方陣が出現し、すぐに見えなくなってしまった葵の噂はたちまち広がった。
東条の葬儀のあとにも、葵と言葉を交わしたであろう斉条のもとに人々は群がった。
それからほどなくして見たこともない王宮が露わになる。葵はその姿を隠すことなく、王宮とともに人々の目に触れることとなるのである。