知れ渡る王の存在-1
「姿を見せぬことが・・・人々のためになると思っていた私が間違っていたのかもしれません。私という存在がどう在るべきなのか・・・悩んでいるのです」
目の前の小さな少女は万能であり、万能じゃない。常に己がどう在るべきか考えている。おそらく、相談する相手さえいないのだろう・・・ならば、と思った斉条は自分の言葉を伝えることにした。
「・・・隠れることも、隠すことも・・・しなくていいんじゃないでしょうか・・・っ・・・
貴方様は実態のない架空の者でもなく、ちゃんと生きてここにいるのだから・・・」
はっとした斉条は恥ずかしそうに視線を落とした。偉大な王へ意見するなど恐れ多いことを・・・と後悔しながら。
「・・・って、きっとおじい様も同じことを言ったと思います・・・」
目をまるくした葵は涙をにじませて微笑んだ。
「ありがとう・・・皆の声は聞いていたけれど、こうやって誰かと話したのは初めてです・・・」
葵はかがんで、東条をみつめながら手を握った。そして顔をあげて斉条へ笑いかけた。
「斉条・・・あなたは東条の若い頃にとてもそっくりですね、血縁関係にあることはすぐにわかりました。そして・・・ふたりとも私の存在を信じてくれて・・・ありがとう」
「お礼を言うのは・・・私たちのほうです!!
そんなに昔ではないこの世界はひどいものだったと聞いた・・・っ!!
その世界を安定させ、守っていたのは・・・」
と、斉条が続けようとしたとき扉の向こう側が騒がしく人々が詰めかけているのがわかった。東条の死の間際、彼が語っていた"王"が姿を現したという話が村中を駆け巡っていたからだ。
斉条が葵を振り返ると、戸惑いの表情を浮かべていた。大勢の目に触れることはやはり躊躇うのだろう。
「葵様・・・この世界や人々が幸せに過ごせているのは貴方様のお力があればこそです・・・。
でも、あなたもこの世界に住むひとりの人間・・・だから・・・皆と変わりなく堂々としていて欲しい・・・です」
特別扱いをしない斉条の言葉には温かみがあり、葵の心を大きく揺さぶった。
「斉条、あなたの言葉・・・とても胸に響きました。これからは、一歩踏み出してみようと思います」
葵は斉条へ握手を求め、ふたりはしっかりと手を握り合った。