現れた人界の王-1
ふわっと外から優しい光が差し込み、東条を照らした。斉条が顔をあげると・・・
「・・・まさか・・・本当に・・・?」
驚いた斉条の視線の先には神々しく輝く翼を背に美しいブラウンの髪、綺麗な青い瞳の華凜な少女が立っていた。
「あぁ・・・、あなた・・・が・・・・」
弱々しく手を差し伸べる東条をみて、少女は壁などなかったように・・・すっと室内へと入り込んだ。
「遅くなって申し訳ありません東条・・・あなたの声、ずっと聞こえていましたよ」
葵の繊細な手が、弱った東条の手を優しく包み込んだ。
東条は頷きながら、とめどなく涙を流し続けている。
「・・・あの・・・とき、わしの足を・・・治してくださった・・・あなた様へ・・・・お礼が言いたかった・・・・・」
「・・・葵とお呼びください、東条・・・あなたの気持ち嬉しく思います。ありがとう・・・」
「・・・葵さま・・・・・貴方のあたたかい光、永遠に・・・忘れませぬ・・・・生まれ変わったら・・・・・いつか・・・・・・・」
最後に願い叶った東条は、穏やかな笑みを浮かべたまま静かに息を引き取った。葵は最後の東条の言葉に頷きながら、消えゆく彼の命の灯に涙していた・・・。
その場にいた斉条以外の十数人の人間達は、その時はじめて彼の話が本当であったと、真実を目の当たりにしたのだった。
葵は東条を看取ったあと、静かに立ちあがると斉条へ目を向けた。
澄み切った葵の瞳が彼を見つめる。
「斉条、遅くなって申し訳ありませんでした。・・・あなたの声も聞こえていました」
「・・・いいえ・・・貴方様は、
おじい様の・・・そして俺の声を聞き届けて・・・こうして来て下さった・・・それだけで・・・」
穏やかに目を閉じる東条の幸せそうな顔をみて、斉条は目の前の幼い王に向き直り、深く頭を下げた。
目を伏せて小さく首を振る葵は、斉条の手を握り微笑んだ。