語り継がれる者-1
「はっはっは!!
この体が自由なうちに王に会ってお礼が言いたかったよ・・・」
「ですが、当時おじい様と同じくらいの王様だって・・・今頃よいお年ではありませんか?」
斉条は首を傾げ、考える素振りをしている。
「そうじゃな・・・想像もつかんな・・・不思議な力をお使いになるからには・・・わしらとは根本的に何かが違うのかもしれん・・・」
「その王様を探しに出た者はいないのでしょうか?」
「わしが元気だったら・・・旅に出てみたかったのぉ・・・」
高齢の東条はベッドの上から、高い空を見上げた。いつか・・・一目、王に会って礼が言いたい・・・彼はその願いを何十年も胸に抱えたままだ。
斉条は祖父の視線の先に目をやり、彼と同じように思いを馳せていた。
(この世界の王か・・・きっと美しい心の持ち主なのだろうな・・・)
・・・それからしばらく後の穏やかな夜に、緊迫した連絡が斉条のもとに入った。
東条の呼吸が弱く、今晩もつかどうかわからないという内容だった。
馬にまたがり、祖父の家へと夜中の風を裂いて駆け抜けた。
(・・・どうか王よ・・・
おじい様のために一目だけ・・・そのお姿を・・・・っ!!)
祖父の家には身内のほかにも近所の者たちが集まっていた。斉条の姿を見て皆が道をあけてくれた。
「・・・おじいさま・・・わかりますか?斉条です・・・」
しっかりと手を握り、呼びかけると東条は薄く目をあけ微笑んだ。
「・・・わしにはもう、時間が・・・ないようじゃ・・・・」
「・・・・っ」
斉条は歯を食いしばって力強く東条の手を握り祈った。
(・・・王よ・・・お願いだ・・・っ・・・あなたに受けた恩を忘れられず、あなたに会いたがっているおじい様の最後の望みを・・・・っ!!)
王宮の中で杖を握りしめた葵は迷っていた。先程から痛いほど東条や斉条の声が聞こえていた。民が依存せぬよう、むやみやたらにその姿をさらしてよいものだろうか、と葛藤しているのだ。
『・・・王・・・あなたに会ってお礼が言いたかった・・・・』
ひときわ小さくなった東条の声に一筋の涙を流した葵は王宮の床を蹴り、羽ばたいた。空間を飛び越える魔方陣が一瞬にして現れ、葵は飛び込む。