後奏-4
× × ×
髪を短く切った翌週、あたしは、自分の部屋へ帰った。別に着替えなんかを取りに戻っ
たわけじゃなくて、ナオくんの部屋に入り浸るのをやめるためだった。
ナオくんも、あたしが昼夜逆転した自堕落な生活を送っていることについては、前々か
ら気に掛けていたみたいだった。何も訊かずにいてくれたけど、あたしの気が済まなかっ
たので、高校生の頃から今までのことを、隊長との関わりを中心に詳しく話した。
隊長との出会いや、隊長に恋して振られたこと、その後、色々と思い悩んだこと、ナオ
くんの部屋に来てから考えていたこと、そのとき頭の中にあったことは全て吐き出した。
「次に会うトコから始まるんだな、ユイとオレは…」
あたしの長い長い長い話を最後まで聴いた後、ナオくんは、そう言いながら、あたしを
ぎゅっと抱き締めてくれた。
部屋に帰ったあたしは、まずバイトを探した。時季的にまだ残ってるかどうかわかんな
かったけど、ちょうど欠員が出たみたいで助かった。近くを通ってる私鉄の会社が運営し
ている遊園地に併設されたプールの監視員。今のあたしに、これ以上ピッタリの仕事はな
いだろう? ってな感じよね。ま、学校が始まったら、違うのを見つければいいしね。
ひと通り掃除や洗濯を済ませた後、採用が決まるまでの間を利用して、3日間、実家に
帰って両親と過ごした。ま、まだまだ親掛かりである都合上、さすがに、オトコの部屋へ
転がり込んでたなんてコトは言えないから、適当に近況報告をした。
高校時代の友達とも遊びに行って、昔のことや、今行ってる学校の話をしたり、ご飯を
食べたりした。つき合ってる彼氏の話が出たときは、もちろん、ナオくんのことを話した。
でも、そういえば、あたしとナオくんって、お互いに「好き」とか言ったことなかったな
と思ったけど、ま、いいでしょ。何か、もう、今さらって感じもするしね…。
翌日からバイトが始まる前の晩、蝶々さんに連絡をとって、例のファミレスで会った。
「あ、髪切ったね。似合うじゃん――って、何か見覚えあるけど、デジャヴュ?」
「ソレを言っちゃぁ、お終ぇよぉ…相変わらず、キツいなぁ、蝶々さんは!!」
ふざけて見栄を切って、ゲラゲラ笑い合いながら、再会を祝した。蝶々さんと会うのも
3カ月振りだったわけだけど、やっぱり、そんな感じはしなかった。
あの後、パソコンに齧りついていたこととか、漫画や小説を読みまくったこととか、昼
と夜が逆転しちゃったこととか、ナオくんの部屋に転がり込んじゃったこととか、エアコ
ンが止まったこととか、氷を10袋マンションの3階まで持って上がったこととか、最近
彼氏のところへ行く途中の隊長に会ったこととか、全て洗いざらい、蝶々さんに話した。
「スッキリした?」
「うん、すっごくスッキリした。蝶々さん、ありがとう」
「いいえ。これで、ユイちゃんも晴れてニューバージョンに生まれ変わったわけね」
「新しいあたしを、今後とも、よろしくお願いします!!」
あたしは、そう言うと、蝶々さんに、ぺこりと頭を下げた。
蝶々さんに、次の『きらめき』のステージの予定なんかを教えてもらって、ナオくんを
一緒に連れて行くつもりだから、ここはひとつ、からだが震える程の、もの凄いカルチャ
ーショックを与えてやって欲しい、ってことと、隊長をはじめ周りの人たちには、事情を
追々と話すことにして、蝶々さんには、しばらく黙っておいてくれるように頼んだ。
そんなこんなで、あっと言う間に、2週間が過ぎた。