間奏-2
「隊長?」
黒皮のギターケースを背負って、真っ直ぐに肩まで伸びた長い黒髪を後ろで束ね、風に
なびかせている独特の風貌。あたしのことを、名字の“巽”で呼ぶ人は、けっこう少ない。
「久しぶり、元気だった?」
「うん」
「あ、そうか、タツミくんの学校、この辺だったよね?」
「うん、そう」
「今日は…あ、そうか夏休みに入ってたんだっけ?」
「うん、たまたま近くの友達のところに来てて」
「僕は、ほら、あいつが、ここからちょっと行ったとこに住んでてさ」
「へぇ」
「あいつが持ってる機材を借りに来たんだよね。で、ちょっと差し入れ」
「ふーん、そうなんだ」
「これから押しかけるとこ。タツミくんは何か買い物?」
「そう、友達に氷を買って来るように頼まれて」
「へぇ…」
真っ白な長袖シャツを腕まくりして、黒のタイトジーンズに、これまた黒のスニーカー
を合わせた服装のセンスも相変わらず。3カ月ぶりくらいに会った隊長の肌は、真夏だと
いうのに、ちっとも日に焼けてなくて、まるで、季節の移り変わりの外に存在している人
と向かい合ってるような、不思議な感じがした。
「あ、ごめん、それじゃ僕行くよ、待ち合わせ時間ギリギリでさ」
「うん、それじゃ」
「よかったら、また楽屋にでも顔出して」
「うん」
「じゃ」
軽く右手を挙げて、隊長は、あたしが来たのとは反対の方へ歩いて行った。