いつもの夜、出水千穂-1
「今日も遅いんですね、毎晩お疲れ様です」
ぴ、ぴ、っとバーコードをスキャンしながら慰労の言葉をかけられた。
黒い制服に身を包んだ彼は、あずま、と書かれたネームプレートを胸に掲げた男の子だ。
ライトブラウンの髪はふわふわの猫っ毛で多分緩いパーマをかけているだろう、そんな感じ。
「ありがと。なんかこの時間定着したみたいね」
穏やかに言葉を返す。
疲れた体を引きずって、終電帰りの足で近所のコンビニに寄るのが日課となりつつあった。
深夜のバイト、あずま君と軽く話が出来るくらいの常連。人見知りをしないからか、他に話し相手がいないからか、挨拶だけだったのに最近は話をするのが当たり前になっていた。
「温めますよね」
「お願い」
慣れた仕草でおにぎりを温め、残りの商品を袋詰めしたりと手際よく動く。
「あ、煙草」
「はい」
そう言いかけただけで、背面の煙草の陳列棚から目当ての商品を抜き取ってスキャンする。
番号や名称を言わなくても用意されてしまうことに顔が綻んだ。
……ちょっとだけ優越感。
「1348円になります」
だけどもう終わり。
現金を支払い、お釣りを受け取って買い物袋を手に下げると「ありがとうございました」とマニュアル通りの答え。