脚の長い彼、斎川霞-2
「俺はお前と飲みに行きたいな」
さんざん目の前で断っていたのに。
昔のことを蒸し返す八千草に、霞は溜め息を吐く。
そう、八千草もまた、長くて綺麗な脚をしていた。
「残念、今日は予定があるの」
やりかけの書類を掲げると八千草の長い指がそれをさらった。
「……後半のデータベースは俺が作成してあげるよ」
ニッと爽やか笑み、向かいに座ってしまう。
こうも強引だと断るタイミングを失って、霞は困った笑みで感謝を口にするしかなかった。
「……ありがとう」
「渋々って感じだけど、素直に受け取っておくよ。………で、終わったら約束ね」
………飲みに行こう。
いや、飲むだけじゃすまないんだろうな。
胸に突っかかっている小骨がまだ疼くけれど、あれから1度も連絡の来ない彼を思うと寂しさが積もるばかり。
八千草を断ることも今なら出来る。
……でも
「……手伝ってもらったら仕方ないわね、ごちそうになろっかな」
そう言って、霞は昔の男の手をとっていた。
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