いつもの夜、出水千穂-2
「頑張ってね」
これから朝方まで働く彼にそう言うと
「ありがとうございます」
とマニュアルじゃない感謝の声。
少し嬉しくなって微笑んでしまう。
「お気をつけて」
そう気遣われて、なんだか心が温まる。
仕事では鬼だとかなんだとか言われているけれど、そんな自分に嘘偽りのない暖かい言葉。
重たかった足取りが軽くなる。
あずま君の言葉を思い出しているうちに、あっという間に玄関に着いてしまって苦笑してしまった。
「ただいま」
しん、と静まり返った部屋に上がり込む。勿論返ってくる声はない。
取り敢えず電気を灯して買ってきたビールを出し、服を脱ぎながら一口。
バスタブにお湯を張り、テレビを点けてまた一口。
疲れた体にアルコールが染み渡る。
毎日のことだけど、ソファーに体を投げ出しながらのビールは格別だと出水は思う。