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夕焼けの窓辺
【その他 官能小説】

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第4話-15

今日の自分は、どうかしている。
普段だったら口が裂けても言えないような恥ずかしい台詞を何度も…。
「あ、別に無理にではないんですけど…」
気恥ずかしさを隠すように、そう言い掛けた英里の唇を、圭輔は塞ぐ。
「んん…」
目を瞑って英里は心地良さそうに吐息を漏らす。
「英里の事、何度でも抱きたい。何度抱いても足りないくらい」
笑顔は浮かべたままだが、熱っぽい瞳で圭輔は英里を見つめる。
英里はそれに無言の笑顔で応えると、圭輔は彼女の鎖骨あたりに唇を寄せて、赤い印を刻む。
微笑みを交わした後、互いの体に腕を回す。
そのまま、英里は圭輔に再び身を委ねた…。



数時間後、英里は目を覚ました。
何度も求め合っているうちに、疲れていつの間にか眠ってしまったようだ。
彼に抱き締められたままで、身動きが取れない。
目蓋を閉じて眠っていても端整な彼の顔をまじまじと見つめる。
…本当に、彼と出会えた運命に感謝するしかない。
こんなに愛し愛されるような人と出会えるなんて、以前までの自分では到底想像もつかなかった。
「圭輔さん、愛してます…」
耳元でそっと囁く。
「俺も」
と、圭輔が目を瞑ったまま返事をした時、英里は全身の血が沸騰するかのような錯覚を覚えた。
「…お、起きてたんですか!?」
「うん、目は覚めてたけど、英里の抱き心地が良くてなかなか起きられなくて…」
そう言いながら、ぎゅうっと彼女の体を抱き締める。
「もう、起きてるんだったらさっさと離して下さい、露天風呂行きたいんですから」
「えー、冷たいなぁ。昨夜はあんなに俺の事求めてくれたのに」
まだ少し寝惚けているのか、全然離そうとしてくれない。
「…いいから、離して下さいって!」
ようやく彼の腕から離れると、英里は浴衣を羽織って露天風呂へと向かう。
英里が部屋を出た後、圭輔もまた昨夜までの事を思っていた。
一時はどうなるかと思ったが、無事英里との関係も修復できたし、昨夜はまた可愛い彼女の一面を垣間見て、幸せを噛み締める。
意地っ張りで、苛々させられる事があっても、結局はそんなところまで愛おしくなってしまう。
すっかり彼女に嵌っているようだ。
―――英里は一人でお湯に浸かりながら、昨夜まであれだけ沈痛な気分でいた事が嘘のように思っていた。
また圭輔に受け入れてもらえて、幸せな気分に浸る。
それに、今日1日、まだ彼と一緒にいられる…
それが嬉しくて、つい顔を綻ばせるのだった。

「これから、どこ行こっか?」
「え…?」
英里は思わず、声を上げる。
部屋で朝食を口にしながら、二人は今後の予定について話していたところだった。
「どこか近くで行きたいところがあるから、ここに泊まったんじゃないんですか?」
「いや、英里が好きそうかなーと思ってここ選んだだけで、実は何も考えてなかった」
「…。」
「そういう目で見られるとイタイなぁ…」
圭輔に困ったような笑顔を向けられて、英里は思わず溜息を吐いた。
何て考えなしな。
それに、目の前の男性は昨夜と同一人物なんだろうか。
纏う雰囲気が違いすぎる。どちらが本当の彼なのかわからない。
ぼんやりと彼の顔を眺めていると、
「…何?」
「いえ、別に…」
急に声を掛けられ、英里は慌てて視線を逸らせた。
「…ま、いいけど。それに、俺は別に英里と二人きりになれるところならどこでも良かったから。おかげで、昨夜は…」
「そ、それ以上言わなくていいですっ!」
英里は少し頬を赤らめて、彼の言を遮る。
「とにかく、英里は行きたいとこないの?」
少し皮肉な笑みを浮かべて、圭輔は英里を見つめる。
「そうですねぇ…」
二人でぱらぱらとガイドブックをめくっていると、英里はとあるページで繰る手を止めた。
「水族館…?」
この辺りは海の近くなので、かなり立派な水族館があるようだ。
「行きたいなぁ…」
掲載されている様々な写真に、英里は目を細める。
「じゃあ、行くか?」
「え、でも…」
「いいよ、英里が行きたいなら」
「ありがとうございます!」
英里は嬉しそうな笑顔を圭輔に向けた。

館内を一通り回り終えた後、二人で海沿いの遊歩道を歩く。
晴れてはいるが、2月の終わりの今は潮風が肌寒い。
隣を歩く圭輔の横顔を英里は見つめる。
このアングルから彼の顔を眺めるのが英里は大好きだ。
彼に片思いしていた頃、送ってもらっている帰りの車内でいつも見つめていたせいかもしれない。
歩いているうちに、ふと、互いの手の甲が触れる。
(手、繋ぎたい…かも)
英里はぼんやりそんな事を思っていると、圭輔が彼女の手を取った。
「あ…」
「手、繋ぎたかったから…」
照れ隠しのように、圭輔は英里の方を見ないで、正面を向いたまま話す。
(圭輔さんも、同じ事考えてくれてたんだ…)
周りの寒さなど気にならない位、繋いだ手から伝わる温もりが愛しい。
こうやって人目を憚らずに、堂々と恋人同士のような事ができるのはやはり嬉しかった。
英里は圭輔の手をぎゅっと握り返す。
それに気付いた圭輔は、はにかんだ笑顔を英里に向ける。
「今日、すごく楽しかったです」
「俺も、水族館なんて来たの、小学生の時以来だな」
「私、水族館は初めて来ました」
「へぇ」
「…ところで、圭輔さんは兄弟っているんですか?」
「あー、俺は兄ちゃんと弟がいるな。男ばっかの3人兄弟」
「いいなぁ、賑やかそうで」
「賑やかどころじゃない…ケンカになると凄まじいぞ」
「でも羨ましいです、私、一人っ子だし…。遊園地も、圭輔さんと行ったのが初めてだったんです。両親共仕事が忙しくて、私、家族揃ってどこかに行った事ってあまりないから…」
少し、淋しそうな笑みを英里は浮かべる。


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