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夕焼けの窓辺
【その他 官能小説】

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第4話-16

「…。」
圭輔は、思わず言葉に詰った。
一人っ子の彼女は、両親以外に家での話し相手もいなかった。それなのに…。
物分りが良いふりをして、両親に甘える術を知らない彼女。たぶん、今もそうなのだろう。
英里が他人と距離を置いて付き合うようになったのも分かる気がする。
圭輔は、自分の発言に少し落ち込んでいる様子の英里を抱き寄せた。
「ちょっ…!?」
幸い、二人以外に通行人はいなかったが、気恥ずかしさで思わず英里は咎めるような声を上げる。
「…これから、行きたいとこあったらどこでも俺が連れてってやるから。俺にだけは、遠慮しないで何でも言えよ」
「急に、どうしたんですか…?」
「わかった?」
彼の台詞には有無を言わせない強さがあった。
英里はとりあえず頷くと、満足したように、圭輔は柔らかく微笑んだ。
彼女の胸に温かい感情が沸き起こる。
今まで、こんなに満たされているような気持ちになった事はなかった。
あと数ヶ月で付き合って丸2年。
こんなに短い期間の付き合いなのに、彼女にとって彼は誰よりも愛しくて、信頼できる人となっている。
その反面、ほんの少し暗い気持ちも浮上する。
もう手遅れなのかもしれないが、彼に依存しすぎてしまうのが怖い。
ずっと1人で立ち続けていた。
もし、彼が自分の前からいなくなってしまえば、もうきっと1人ではいられない。
こんなに幸せなのに、どうしてもこんな悲観的な思いを抱いてしまう自分がまた嫌になる。
(きっと、こんな思いを寄せられたら、彼にしたら重い…だろうな)
やはり、自分の全てを彼には見せられない…そう思うと、英里は軽く溜息を吐く。
―――でも、今こうやって繋がっている手の温もりだけは本物だ。
思えば、さっきから自分が傷付きたくないという事ばかり考えている。
(たとえ傷付いてもいい。これからも彼と一緒にいるためなら…)
英里にしては、少しだけ前向きに考える。
そんな思考ができるようになっただけでも、圭輔が彼女に与えた影響は大きかったかもしれない。

帰りの車内、何故か圭輔は静かだった。
その雰囲気が伝播してか、英里もつい緊張してしまい、黙ったままだ。
近くのパーキングエリアに止まった後、突然話を切り出す。
「明日が、まだ休みだったらいいのにな…。このまま、俺の部屋まで英里を連れて行けるのに」
「じょ、冗談言わ…」
「冗談じゃないよ。まだ、英里を離したくない」
帰したくない。彼の偽りない本心。
「あの…」
静かだが、強い視線で射抜かれ、英里は困ったように目を伏せる。
「英里に、俺って必要…?」
圭輔は、少しだけ弱気な自分を見せる。
英里は自分の本心をあまり言ってくれない。
ずっと彼女と一緒にいたいという気持ちが日増しに強くなってくる。
抑えきれない程の独占欲が生じ始めている自分に、彼は少し恐怖を抱き始めていた。
言葉じゃない。それはわかっている。
昨夜も彼女は態度で彼への愛情を十分示してくれた。
女々しいかもしれないが、はっきりとした自信が欲しい。
自分に、彼女を独占していいという権利があるのかどうか。
…英里は一瞬、彼が何を言っているのか理解できなかった。
あまり聞いた事のない、圭輔の少し切なげな声。
「あ、当たり前じゃないですか!圭輔さんがいないと、私…」
「だったらさ…もっと俺を頼ってよ」
優しく、彼女の頬に彼の手が触れる。
そして、彼女を包み込むような、優しい眼差し。
「頼りないかもしれないけど…俺は、絶対英里に淋しい思いをさせないから」
昼間の彼女の話が、どうしても心の奥底に引っ掛かっていた。
もっと、彼女と一緒に居てあげたい。
…これからも、彼女とずっと一緒にいる方法は…。
いつかはわからないが、きっとこの言葉を彼女に告げる事になるだろう。
そんな圭輔の言葉に、英里の瞳から何故か涙が零れた。
「あ…あれ?どうして…」
慌てて目を擦ろうとする英里の手を掴んで、圭輔は彼女の唇に自らの唇を寄せた。
彼の温もりに触れて、英里は少し落ち着いたようだ。
「ありがとうございます…嬉しい。そんな風に言ってくれて…」
密かな圭輔の胸の中の決意には当然気付くはずもなく、英里は微かな笑顔を向けた。
彼女の懸念も少し払拭され、この旅行で二人の距離は確実に縮まったようだ…。


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