第3話-12
「意地悪…ッ!」
「…意地悪…?英里の方がよっぽど意地悪だよ…俺を焦らしてばかりで」
非難めいた英里の声に、圭輔は心外だと言わんばかりに、そう言い返した。
辛いのは、彼も同じだ。
「…。」
「体の相性が悪いんじゃないか不安だって言ったよな…今は、良くない?」
「………気持ちいい…です…、すごく…」
暫し、逡巡して、英里は答えた。
「じゃあ、どうして欲しい?さっきも言ったけど、英里がして欲しい事をしてあげたい…。それが、俺も一番気持ち良くなる方法だから」
ふっくらとした彼女の唇に、愛液で濡れた指先を沿わせながら、圭輔は彼女が口を開くのを待つ。
彼自身の突き立てた楔も、気を抜けば締め付けの良い彼女の中で果ててしまいそうになっていた。本当はぎりぎりの攻防戦。そんな様子を悟られぬよう、圭輔は微かに微笑んでみせた。
英里は顔を真っ赤に染めて、圭輔の耳元まで顔を寄せると、小声で何事かを呟いた。
「……了解」
彼女の言葉に満足したのか、再び、彼女の中の彼自身を、より奥へと進める。
速度は遅いが、力強く彼女の奥深くまで捻じ込むかのように突き上げる。
ずんずんと鈍い衝撃が子宮に伝わる。
“動いて…、2人でもっと気持ち良くなりたい…”
ストイックな彼女は、こういう自分の欲望を素直に表す事に抵抗を感じるようだ。
…惚れた弱みか、そういう部分もまた可愛いと思うところもあるのだが、そんな観念を崩して、欲しくなった時にはいつでも自分を求めて欲しいとも彼は思う。
「ふぁぁん……あぁっ…ん!」
胸の裡に秘めていた気持ちを告白して吹っ切れたのか、ようやく待ち望んでいた快楽が訪れて、英里は思わず高い声を上げる。
圭輔は片手で胸を捏ねるように激しく揉みしだきながら、緩急をつけて腰を打ちつける。
立った状態だからか、以前よりも奥深くまで彼に突き上げられているような感覚に陥る。
ぐちゅぐちゅと接合部からは淫らな音が奏でられ、彼が強く突き上げる度に、背にしている書棚がギシギシと音を立てる。
夜の学校、そして、古い本の匂いの中に似つかわしくない、周囲に充満している性の匂い。
そのアブノーマルな環境が、より2人の官能を高める要素になっている。
英里は、上目遣いに彼の顔を見上げると、汗ばんだ彼の顔が、間近にある。
端整な彼の顔が快感に歪められ、その表情に見惚れてしまう。
じっと見つめられたまま抱かれて、心臓の鼓動は高鳴るばかりでおさまらない。
「先生…は、いいですか…?」
飛びそうになる意識を必死に繋ぎとめて、英里は彼から問われた質問を、今度は逆に問い返す。
「あぁ…当たり前、だろ」
薄く開かれた唇の隙間から、掠れたような低い声で囁かれ、子宮がきゅんと疼くのを感じた彼女は、無意識に彼の熱い肉棒を締め付けた。
柔らかく温かい彼女の粘膜に包まれ続けていただけで限界が近付いてきたというのに、急にきつく締め付けられて、思わず達してしまいそうになる。狂おしい程の快感。
しかし、もう一度、彼女を絶頂へ導くまでは、我慢しようと彼は決めている。
射精感を必死に堪えながら、彼女の膣壁を擦る。
圭輔の律動に合わせて、英里の切羽詰ったような声が間断なく漏れる。
彼女が、二度目の絶頂を迎えるのも時間の問題だろう。
その、快楽に蕩けた表情も、縋るように自分を見上げる潤んだ瞳も、上気した肌も、甘い声も、背中に食い込む指先の強さも、この上なく官能を高めてくれる。愛しくてやまない彼女…。
「英里、すごく、いい…」
肉体的な快楽だけでなく、精神的な快楽が齎す効果は大きい。
喘ぎ声混じりに発せられた彼のこの言葉を聞いた途端、英里の心臓の鼓動が更に早まる。
これ以上鼓動が早まると死んでしまうのではないかと思ってしまう程に切なく、息苦しくなる。
こんな自分でも、彼は満足してくれていると思うと、この上ない喜びを感じた。
「あぁっ…も、もう…」
全て言葉を言い終える前に、彼女の意識は快楽の波に流された。
同時に、彼の物が一段と膨れ上がったと思うと、激しく痙攣する。
突き抜けるような快感が圭輔の背中を走るが、その頃の英里は意識を手放しかけていて、糸が切れたあやつり人形のようにくずおれる。
倒れこんできた英里の体をしっかり抱きとめると、彼女の体を支えたまま、圭輔もゆっくりと床に座りこんだ。
肩で荒く息をしている彼女の汗ばんだ顔に口付け、その華奢な体を抱き締めた。
体越しに伝わる彼女の鼓動と、小刻みに漏れる吐息が愛しい。
また、彼女に無理を強いてしまったが、後悔はしていない。
圭輔は乱れた息を整えるために一呼吸つく。
快感の余韻で心地よい疲労感が彼の体を覆う。
やがて、長い睫毛に縁取られた英里の目蓋がゆっくりと開かれ、情事の後で、普段より艶色を帯びた彼女の瞳が、彼をじっと見つめる。
まじまじと見ると、下半分乳房が見え隠れしている乱れた制服姿の彼女はとても扇情的でいやらしい。下手なAVなど比にならない。
(鼻血吹きそう…)
今更ながら、何だか、自分がとてもイケナイ事をしてしまったような気がする…。
圭輔がそう思った矢先、英里が開口一番、
「…淫行教師…」
など、ぽつりと零したものだから、その言葉は彼の胸にぐさりと突き刺さる。
「…俺達2人だけの時は、ただの恋人同士だって前にも言っただろ…」
少し拗ねたように呟く彼の姿は、つい先程までと同一人物とは思えない。
それだけ、彼女との交わりは理性を越えて、彼の軸を狂わせるということなのだろう。