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夕焼けの窓辺
【その他 官能小説】

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第3話-13

「冗談ですって。じゃあ、圭輔、さん…」
制服の乱れを直した後、まだ少し息が上がっている彼女は、彼の胸に顔を寄せる。
「久しぶりに、その…触れ合えて、すごく幸せです…。…大好き…」
彼女に圧し掛かっていた不安も払拭されて、心が軽くなったのか、彼女にしては珍しくストレートに気持ちを告げる。
まだ重い体を起こして、彼の唇に軽く触れる程度の口づけを、彼女の方から交わした。
…それだけで、圭輔の胸はとても満たされる。
英里の存在が圭輔の中でどれほど大きくなっているのか彼女は知らない。
彼の些細な言動で彼女が一喜一憂するように、彼も同じだということがまだわかっていない。
「あ、すいません…腰が抜けて立てないみたい…」
照れ笑いで、後から沸き起こってきた恥ずかしさを隠すように、英里は一人で言葉を発し続ける。
「…もっかいヤる?」
「な、何言ってるんですか。ホントにそろそろ帰らないと…!」
唐突な圭輔の言葉に、また頬を赤く染めて、英里は必死に立ち上がろうとするが、まだ腰に力が入らないようだ。
冗談っぽく口にしてみたが、彼の内心では結構本気だったりする。
3ヶ月ぶりで、たった1度だけではまだまだ彼女が足りない。
むしろ、ますます彼女が欲しくなってしまった。
「もう、不安は消えた?」
「……ハイ」
「そっか…」
とりあえず、彼の目的は達成した。
もう一度、彼女の柔らかく温かい体に触れたい衝動を理性で必死に抑え込む。
「さて、じゃあ残念だけど帰るか」
「ざ、残念って…きゃぁっ!」
突然、英里は自分の体が浮いたかと思うと、何と彼に抱え上げられていた。
「お、下ろしてください!誰かに見られたら…」
「だーいじょうぶだって。それに前もこうやって保健室まで運んだし」
「前は倒れたからで…!」
「もし誰かとすれ違ったら、急にぎっくり腰になったって事にでもすれば?」
「い、嫌ですよ…そんなカッコ悪いの…」
まだ下ろしてもらおうと抵抗しようとする彼女を制して、圭輔は英里を抱きかかえたまま図書室の入り口の方へと歩き出す。
「はいはい、とりあえず帰りましょう水越さん。送り狼になったりしないから安心して」
「…もうここで襲ったクセに、よく言う…」
「嫌なら抵抗しろって最初にちゃんと言ったんだから、合意の上だろ?」
にこりといつもの穏やかな教師顔でとんでもない事を言ってのける。
抵抗したところで、どうせやめてくれなどしないだろうに。
「先生、最近何か性格悪くなってませんか?」
英里はジト目で圭輔を睨むと、相変わらず笑顔を崩さないままの彼に、
「それは、たぶん水越さんの影響だな」
などと言い返されて、二の句が継げなくなってしまった。
すっかりむくれ顔の英里だが、決して本気で嫌がっているというわけではない。
その事を彼もよくわかっているから、軽口を叩けるのである。
…情事の後にしてはちっとも色気のない会話になってしまっているが、こういうやりとりは楽しくて互いに気に入っているのだから。
時刻は既に9時を大幅に回っている。
英里を無事、家まで送り届けた帰りの車内、一人ふと圭輔は思う。
どうも彼女は、何でも自分の内に溜め込んでしまうタイプらしい。
体の相性が悪ければ、嫌われてしまうのではないかなどと思われていたとは、正直とても不本意だった。
体が目当てで付き合っているわけではないし、もし合わないとしても、何度も彼女を抱いて、互いの相性を高めていけば良いだけだ。何の問題もない。
それよりも、彼女の内面の方が彼にとっての懸念だ。
今回のようなすれ違いが生じないようにするにはどうしたら良いのか。
…どうやら、それが彼の今後の課題になりそうだ。



「先輩、お先に失礼します」
「お疲れ様。気をつけて帰ってね」
1年生の図書委員の男子が図書室を完全に出て行ったのを確認した後、英里は思わずカウンターの上に顔を伏せる。
隣に彼がいる時は必死に我慢していたが、どうしても昨日の出来事を思い出すと赤面しそうになってしまう。
ここは、本好きの彼女が唯一落ち着ける場所だった。
なのに、そこまでも圭輔の色に塗り替えられてしまう。
これからも足を踏み入れる度に、きっとしばらくは昨夜の光景が思い浮かぶのだろう。
知れば知る程、彼に惹かれて、同時に知らない自分が見えてくる。
もうすぐ、11月も終わり。
そして、もうすぐ、卒業。
そうしたら、今のように毎日彼に会えなくなってしまう。
彼がもしいなくなったら…怖くて、そんな事態は考えたくないし、考えられない。
…とりあえず、それまでは何も考えずに彼との秘密の高校生活を楽しもう。
窓越しに、澄んだ秋の夜空を見上げながら、英里は微かに笑みを零した…。


<第3話・完>


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