〈聖辱巡礼・其のニ〉-1
『私さ、先生のアドバイス通りに告白したらさ、和紀からOK貰えちゃったの!』
『え?ちょっと春日先生!私の話も聞いてよ!』
賑やかに鳴いていたアブラ蝉の姿は疎ら(まばら)になり、秋の訪れを告げるツクツクボウシだけが、夏の終わりに最後の唄を奏でていた。
哀しい蝉時雨に包まれた夕焼けに染まる校舎の中、職員室の向かいにある保健室の中で、女生徒達に囲まれて恋愛話に花を咲かせていた。
「アドバイスなんて…ちょっと勇気を持てるように、背中を押してあげただけよ」
少しだけ照れたような表情をみせながら、幹恵は女生徒達から顔を伏せた。
恋愛の一段階を進む事が出来たのは自分のアドバイスではなく、その生徒自身が行動したからだ……そう言いたげに幹恵は謙遜した仕種をみせ、慕う女生徒達に媚びていた。
幹恵のアドバイスで、恋い焦がれる異性と付き合えた女生徒はかなりの人数になっていた。
恋愛の神の如く祭り上げられた幹恵は、男子生徒ばかりでなく、女生徒達の心までも捉えて離さない。
勿論、琢也を性の奴隷に堕落させ、弄んでいる事など知る由もない……。
『先生。何週間か前の日曜日に〇×☆に居たわよね?私初めて先生の私服姿見ちゃった』
(!!!!)
その台詞に幹恵はハッとした表情を浮かべ、声のする方向を振り向いた……屈託のない笑顔を振り撒く友の姿がそこにはあった。
『超ミニのピンクのワンピ着てさ、スゴく可愛かったなぁ……もしかして彼氏とデートだったのかな?』
『先生が超ミニ?え〜、私も見たいなあ』
『脚も長くてスタイル良いもんね。私は着れないや』
学校の中では、いつもジャージしか着ない幹恵。
そんな幹恵のワンピース姿の話題に盛り上がる女生徒達の輪の中で、幹恵の表情は強張ったまま……確かにかなり前の日曜日には、友の言う店に琢也と二人で行っていた……。
(……そうだった……コイツは大人と付き合ってたんだ……)
幹恵の頭の中では、県外まで行けば、もう高校の奴らの視線など有り得ないと決め込んでいた。
生徒同士のデートなど、電車で隣町程度がせいぜいだと思い込んでいた。
しかし、友だけは違う。
車を所有している男と付き合い、その行動範囲は成人と同等……琢也とのショッピングを楽しんでいたところを、友に目撃されたなら……幹恵の顔から血の気が引いていった。