〈聖辱巡礼・其のニ〉-5
『そこ右に曲がれ…ウインカーなんか必要ないから』
乃ノ花は左の頬にカッターを突き付けると、教師に対して命令を吐きつけた。
もう心の何処にも、幹恵を慕う気持ちなど無いのだろう。
幹恵の車が笹やぶに擦れる度にキーキーと鳴き、細かな擦り傷が無数に付いていく。
右に曲がってなだらかな坂を登ると、拓けた土地と剥き出しの赤土、そして廃棄された錆だらけのブルドーザーに、くたびれた二階建てのプレハブ小屋があった。
そしてプレハブ小屋の側には、デコレーションケーキのように過剰に飾られた赤と白の軽自動車が、ニ台並んで停まっていた。
「……り…梨央…さん……あの人は…誰なの…？」
並ぶ軽自動車のドアが開くと、だぼだぼの服を着た、如何にも素行の悪そうな男達がゾロゾロと降りてきた。
幹恵はギヤをバックに入れて逃げようとしたが、眼球を切り付けるようにカッターを突き付けられ、身動きは取れなくなってしまった。
『そいつかよ？生徒に手ぇ出したエロ教師ってのは？』
『エンジン切って降りろ。聞こえてんだろ？』
五人の男達に車を取り囲まれ、ドアを開けられた幹恵は、観念したように車から降り、男達の前に立った。それでも幹恵は動揺する素振りを見せまいと、わざと平静を装い、悪びれもせずに男達を見回した。
「……何よ貴方達？生徒と付き合ってるけど、それがなにか？お互いに好きなんだから悪い事じゃないわよね？」
多勢を前にしても、幹恵は怯む様子をおくびにも出さず、開き直ったように自分の意見を述べた。
未成年との性的関係を結ぶのは立派な犯罪。
しかも幹恵と琢也との関係は、常識から外れたものだ。
教師があまりある性知識で生徒を堕落させ、奴隷同様に扱うなど許される事ではない。
だが、その事は二人だけの物であり、梨央や美加子、ましてや集まっていた男達には無関係な事柄だ。
やっと手に入れた可愛い牡奴隷を、やすやすと手放すつもりなど毛頭無く、見ず知らずの不潔な若者達に、あれやこれや言われる筋合いも無い。
不機嫌を通り越した威圧の表情で男達を見回し、三人娘までも睨みつける。
弱みを見せると付け上がるのが、若者の習性なのを教師の幹恵は知っているからだ。
『お〜。エロ教師が一端に説教くれやがったぜ』
『パンティー見えそうなミニスカート穿きやがって……そうやって誘ったんだろ？』
『その巨乳で俺達を楽しませてくれよ……クックック……』
金色のネックレスやブレスレットをジャラジャラと鳴らしながら、男達は幹恵を取り囲んでジロジロと眺めた。
その輪を距離を置きながら三人娘は眺め、ニヤニヤと笑っている。
幹恵は更に不機嫌になり、歯を剥き出した怒りの表情になり、真正面の男を威圧した。
ろくな教育も受けず、自己抑制も効かず、頭の悪そうな奴らに嘲られるなど、教師のプライドが許さない。
しかし、幹恵の素行も褒められたものではない。
性欲の為に生徒を喰い荒らし、邪魔な女生徒は鬼畜に喰わせて消し去る。
己のしてきた行いを棚に上げ、幹恵は自身で決めた正義を振りかざしているだけだ。