帰郷-5
「あーっ、懐かしい!」
広々とした体育館を無邪気に駆け回る羽衣。
3年間頑張って続けた部活には特別思い入れがあったようで、俺はそんな彼女を見てクスッと笑った。
すると、羽衣は体育倉庫の扉の前でふと立ち止まった。
「どうした?」
羽衣の横に並んで顔を覗き込めば、どことなく頬を赤らめていた。
「ううん、何でもない」
慌てた様子の羽衣。
その瞬間、頭の中にノイズが走り、乱れた映像が浮かんだ。
放課後に、友達と4、5人教室の机に座って馬鹿話している光景。
確かそれを言い出したのは、陽介だったような気がする。
ノイズが混じった陽介の声。
――広瀬、知ってっか?
――何がだよ。
――羽衣と筒井、体育倉庫でヤってたらしいぞ。
「……広瀬?」
ハッと我に返ると羽衣が不思議そうな顔でこちらを見ていた。
思い出した。確か羽衣が初めて彼氏ができたと喜んでいたっけ。
相手は男子バレー部のキャプテン、筒井だ。
俺は、アイツ等が一緒にいるとこを遠巻きに眺めているだけで。
陽介からのいらない情報を耳にしたのはアイツ等が付き合って3ヶ月ほどしてからだった。
さっきの羽衣を思い出せば、懐かしそうに目を細めて体育倉庫の扉を見つめていた。
ここで筒井に抱かれたことでも思い出していんのか?
……クソッタレが。ずっと俺を好きだっつってたじゃねえか。
無意識のうちに奥歯に力が入る。
高校時代の俺も確かこんな風に歯噛みしていた気がする。
でも、あの頃は手が届かないと思っていたから、我慢できていた。
でも、今のお前は俺のものなんだ。
昔の男の身体なんて思い浮かべてんじゃねえよ。
……コイツの思い出、ぶっ壊してやる。
俺は舌打ちを一つしてから羽衣の手を掴むと、少し重い体育倉庫の扉を勢いよく開けた。
カビ臭い匂いにむせかえりそうになりながら、俺は羽衣を、隅っこに置かれた器械体操に使うマットの上に突き飛ばした。