遠回りの幸せ-5
『私だって・・・・私だって、サラダ作ったもんっ!!』
『俺だってオイルサーディン調理したろっ!』
『ドレッシングも手作りだよっ!あの味を出すのって難しいんだからっ!』
『オリーブオイルもスパイスも、俺がこだわって選んだヤツだぜっ!それを使ってたろっ!』
お互い、一気にまくし立てたのはイイが、まるで子供のケンカだ。頭に血が昇ったワケではない。こうでもしなきゃ、会話が切れる。少なくとも、俺はそう思っていた。
『アンタだって美味しいって食べたでしょっ!』
『でも、ほとんど食ったのはお前だろっ!』
『そっ、それは・・・・』
『俺はお前の為に作ったんだっ!!!!』
気が付いたら言っていた。何も考えなかった結果、つい本音が出た。彼女の口からは次の言葉は出てこなかった。一度、本音を出してしまえば、後は矢継ぎ早だった。
『なぁ・・・・昔さぁ、ここでみんなと呑んだ時の事、憶えてるか?あの時もオーブン焼き作ったよな。確かお前、一人で全部食ったよな。それ見て俺、すげぇ嬉しかった。お前が俺の作ったの食って喜んでたの。俺ってバカだからさぁ、いつお前が来てもイイ様にオイルサーディンとトマトは必ず欠かさないでいたんだ。また出逢えるなんて可能性なかったのにさぁ・・・・でも、今回のも美味かったろ?』
たしなめる様に言った俺に対し、しばらくして無言でうなずく彼女。その目からは、『光るもの』が溢れていた。次から次へと流れ落ちる涙。しかし、眼差しは頑なに俺だけへ向けられていた。
『俺も愛美の事が好きだよ。でも、分かんねぇんだ。今まで、何人も付き合ってきたし、それ以上の数の女と寝たよ。けどな、こんな気持ちになったのはお前が初めてなんだ。戸惑ってるんだ。お前の事しか考えられないとか、頭の中はお前の事で一杯だってワケじゃねぇんだ。でも、何かするたんびにお前ならどう思うんだろうな、ってのが真っ先に思い浮かぶ。自分でも分かったんだよ。今の俺は、純粋にお前だけを見てるって。』
まるでB級ドラマのセリフ。でも、今の俺にはこれが精一杯。彼女の涙はまだ止まらない。逆にさっきより増えたくらいだ。口を手で覆って、必死に嗚咽をこらえている彼女を見てて、ツラくなってきた。
『お前、涙拭けよ。顔、グチャグチャだぞ。』
タオルを取りに、立ち上がった俺。そこに彼女が近づいてきた。
『そんなに顔、グチャグチャ?』
『ああ、ヒドいモンだ。まるで出来の悪い特殊メイクだよ。』
泣きながら吹き出す彼女。相変わらずの俺。彼女も慣れていた。涙を流しながらも、少し微笑んで彼女が言った。
『明人。こんな顔でもイイ?』
『もちろん、大歓迎ですよ。って言うか、俺以外にその顔、耐えられるヤツいるかぁ?』
『言っとくけど、一度購入したら返品出来ないからネ。』
その言葉を合図に、俺と愛美は唇を重ねた。今回は俺から動いた。お互い、今まで満たされなかった『何か』を埋めるかの様に求め、貪り合った。
俺の行為に、彼女は声を洩らし始めた。見計らったかの様に、俺の唇と舌は愛美の首筋、耳と突き進んだ。
『はぁっ・・・・あぁぁん・・・・あっ・・・・・・・・』
愛美の喘ぐ声が、俺の『攻撃』をエスカレートさせた。首筋を攻める舌に続き、ワイシャツの中に右手を入れる。ノーブラの胸。乳房に手を掛けただけで、体の力が抜けたかの様に、その場に跪いて倒れこんだ。堅くなった乳首に微かに指が触れた。
『くふぅっっ!』
一気に腰を跳ね上げ、荒く息をし始めた。それを見た俺に、歯止めは効かなかった。荒っぽくワイシャツを剥ぎ取り、彼女の肌をあらわにした。透き通る様に白い肌は、俺の『攻撃』に耐え兼ねたのか、桜の花の様に色付いていた。彼女の脇腹に手が行く。まるで吸い付いて離れない質感。このまま永久に触れていたい感覚にとらわれた。しかし、彼女はそれを許さない。
『もっとぉ・・・・あきひ・・・・とぉ・・・・やめ・・・・ないでぇ・・・・』
女性の力とは思えないほどの締め付けで、俺の首元に両腕を回す。このまま逃がしたくない。目の前にある俺の唇に乱暴にむしゃぶりつく。体の中にある粘液の全てを吸い上げられるかの如く、彼女は俺を求めた。
《負けられないっ!》
服の上から彼女の股間に手を伸ばす。俺が貸したハーフパンツは、彼女の溢れ出る蜜でずぶ濡れになっていた。布越しでも分かる、彼女の泉。終わりなく湧き出るそれは、徐々に侵食していき、床に染み出るまでになっていた。吸い付かれた唇越しに、淡く切ない声が漏れ始めた。
《もっと愛美を味わいたい。》
俺は唇を離し、『攻撃』の的を変えた。鎖骨への口付けに仰け反る彼女。その程度では許さない。脇の下へ舌が這う。
『あぐっっ!!』
下唇を噛み、許容範囲を超える快楽に我を忘れる彼女。俺の舌が脇腹へ流れて行く。まるで別の生き物かの様に彼女を攻め続ける。