レクチャー-7
呆然とするあたしに、広瀬は気まずそうに謝った。
「ごめん……、俺我慢出来なかった……」
広瀬の悔しそうな顔に胸が締め付けられる。
やっぱり男のプライドがあるんだろうか。
「ううん、あたし、スッゴい気持ちよかった……」
それは本心だ。
大好きな男があたしの中に入って、気持ちよさのあまりに一足先にイってしまうのは、冥利に尽きるってもんじゃないか。
あたしは、目を細めて広瀬に微笑んだ。
「そう言ってもらえれば光栄だ。レクチャーしてくれてサンキューな」
その言葉に安堵したのか、広瀬はあたしの髪を優しく撫でた。
◇
広瀬の筆下ろしも無事終わり、これからこの身体は広瀬の彼女のものになる。
広瀬と抱き合った夢のような時間はついに終わってしまった。
そしてこれからは、広瀬は彼女とだけたくさんセックスするんだ。
……そんなのイヤ。
ジワリと涙が溢れて、それが仰向けのままのあたしのこめかみを流れ落ちた。
広瀬はあたしの涙を見て目を見開いた。
「ご、ごめん、羽衣!」
「なんっで謝んのよ……」
「だって……泣いてるし……。さっきまでは理性吹っ飛んでしまったけど、よく考えたら俺のしてることはひでえよな。彼氏でもない、ただの友達に無理矢理ヤられて……。ごめん、俺のワガママでお前のこと利用しちまって」
申し訳なさそうに頭を下げる広瀬に、あたしは首をブンブン横に振って否定した。
「違うっ! 嫌なんかじゃないの」
「だって……お前泣いてるじゃねえか」
「それは……」
涙とともにあたしの今まで隠してきた気持ちがどんどん溢れてくる。
あたしは涙に濡れる顔を手で覆い隠しながら、思いの丈を叫んだ。
「このまま広瀬が他の女のものになると思ったら……それが嫌だった」
「え……?」
「あたし、ずっとずっと広瀬のこと好きだったの……! でも、仲良くなりすぎてそれが言えなくて……。……お願い、広瀬。他の女のとこになんか行かないで……」
止まらない想いを声を振り絞って伝えた。
「マ、マジかよ……」
広瀬は思いっきり動揺したように目を逸らした。
その様子に、広瀬の気持ちを悟ってしまう。
やっぱりあたしは広瀬にとって単なる友達で。
今日あたしを抱いたのは、好きな娘の前で恥をかきたくなかったから踏み台にしただけだったんだ。