小説投稿サイト-1
そのヨネコさんが、何やら最近小説を書き始めたらしい。SNS関連のサイトの中には、素人のひとたちが自作の小説を投稿して遊べるようなものがあるらしく、ヨネコさんもそこに投稿して楽しんでいるという。
「ね、ほらほら、これがワタシの書いた作品なの。この横にある数字が昨日読んでくれた人数で、この下のが評価点で、それからこれが作品の感想で……」
唾を飛ばしながら持参したノートパソコンの画面を指さし、ものすごい勢いで説明してくれるが、残念なことにまったく興味が持てない。ずずず、とお茶をすすりながらまだ寝ぼけた頭でぼんやりと画面を眺める。ああ、良い香り。静岡に嫁いだ友人が送ってきてくれたお茶はやっぱり美味しいなあ、とか思いながらヨネコさんの話を聞き流す。
「見て、このコメント。『拝読いたしました。いつもながら可憐さんの作品は素敵ですね』だって! いやぁん、嬉しいっ」
何がそんなに嬉しいのかわからないが、両手を顎の下に添えて体をクネクネさせている。10代の可愛い子がやるならまだしも、40過ぎで明石屋さんまを劣化させたような容貌のヨネコさんがやると殺人的に気持ちが悪い。
「ねえ、ねえ、モモちゃんも読みたいでしょ? 読ませてあげてもいいわよ、ほら」
「いや、あの……っていうか、この可憐さんって……ヨネコさんのことですか?」
「そうよ、実名で投稿する人なんていないわよ。綾小路可憐、この名前をペンネームにしてるの。良い名前でしょお?」
「あ、あやのこうじ……かれん……」
目の前にいるヨネコさんとペンネームの落差に言葉を失っていると、チャカチャカとパソコンを操作して「一番の自信作だから読め」と画面を突きつけてくる。
「これはね、お友達の中でも一番評判が良くて、みんな誉めてくれるの。まだ書き始めて数カ月でこんなに書けるなんてすごいねって。ぐふふ、ほら、読んで、読んで」
「はあ……」
読んで読んでといいながら、ぶんぶん腕を振り回す。ヨネコさんが割ってしまわないように、湯のみをそっとテーブルの奥に置きながら、仕方なくその『作品』を読んだ。
そんなに長文では無かったので、思ったよりも時間をかけずに読み終わった。なんというか、男の人と女の人が仲良くなって結婚するだけの話だった。もともと本といえばオレンジページとかレタスクラブみたいな雑誌しか買わないし、小説なんて高校の教科書以来読んだ記憶が無い。そんなわたしに気のきいた感想が言えるわけもなく、でも黙っているのもアレなので小さい声で、
「面白いですね」
とだけ言ってみた。すると気を良くしたのか、ニタニタ笑いながら今度は「感想を書け」と言い始めた。