『The girl & boy』-4
目蓋からは、赤い粘着質な液体が未だ乾くこと無く流れ続けている、眼球にまで傷が達していたらどうしようと、そんなことを考え始めると、不安で怖くて可哀相で、見ていられなくて、腹が立って仕方がなかった。
彼がいなければ、せっかく切り開いた新世界にも、意味が無い、そんな所に一人でなんて帰れない。
なぜこんなことになったのか、誰が悪いのか、何のせいなのか。
巡る思いは収拾が付かない。
ただ一つ明らかなことは、彼がこんなことを言い出すまでその苦悩と絶望に気付いてやれなかった自分の非力さ。
私は、眩暈を伴うほどの自己嫌悪を覚えた。
「ほら、ちゃんと立って、君は家に帰るんだ」
「嫌だ、絶対嫌だ、私もここに、君といる、もう立てない、嫌だ、こんなのは絶対に嫌だ、」
「いい加減にしないと怒るよ」
「良いよ、怒れば良いよ、ねえ、そうしたらここにいても良い?」
「お願いだよ、落ち着いて聞いて、」
「嫌だ、聞かない、もう嫌だよ、ねえ、そうだ、君の腕はまだ動く?動くでしょう?ねえ、まだ私を殺すことくらい出来るでしょう?そうだ、ちゃんと、心中だって、ちゃんと」
良いことを思いついたと思って、慌てて自分のポケットの中を探った。
男の肩口できつく閉じたままだった両目は、周りのあまりに鮮やかなオレンジ発光に、つんとするくらい一瞬眩んだ、緩んだ目玉、辺りが余計滲んで見えない、何度も視界を拭った。
ようやくポケットから取り出した、残り物のナイフ。
がたがたと震え、なかなか刃先を開けない自分の両手を見て、一体自分は今どれだけ混乱しているのだろうかと思った。
さっきまで自分のしていたことを思うと、全く、信じられないほどの体たらくだ。
あちこちに滑り落としながら、ようやく柄を男の右手に握らせ、その上からぎゅう、と精一杯の思いを込めて握り締めた、その様を、男は終始黙って見守っていた。
「さあ、君は心中だって・・・」
言ったじゃないか。
最後まで言い終わる前に、ぐったりと地面に伸びていたはずの右手が、いつのまにか私の両手の中から勢い良く飛び出していた。
目の前に迫る、飴色の閃光と、肉を裂く、鈍い感触。合間に見えた、男の、冷静な両の目。
→続く。