『望郷ー魂の帰る場所ー第一章……』-4
夜が怖い……。そんな気持ちになるのは小学生以来だろうか。自分の部屋で宏行は、そんな事を考えていた。気にしないつもりでも、この時間になると不安がムクムクと頭をもたげて来る。原因不明の痛みと痣……。まるで何かに反応しているみたいに不定期にそれは現れ、そして消える。
だが何故?何に反応し、どうして俺に?
宏行の疑問に答える者などいる筈も無い。悪戯に時間は過ぎて行き、静かな部屋に溜息だけが響いた。突然、音楽が鳴り響き、宏行は体をビクンと震わせる。傍らに置いていた携帯を取ると宏行は着信名を見た。それは彰人からの電話だった。
「もしもし、どうした彰人?」
「………」
宏行の呼び掛けにも電話の向こうからの返事は無い。
「彰人?」
そう言った時、宏行の首筋に痛みが走った。
(くっ、こんな時に……)
携帯を握り締め、宏行は顔をしかめる。
「……けてくれ……宏…行……」
宏行の耳に微かな声が聞こえた。しかし、声はか細く途切れ途切れでよく聞こえない。後は激しい呼吸音だけが聞こえた。
「彰人!よく聞こえないよ。どうしたんだ?」
「助け……くれ……動……ない……」
宏行はゾワゾワと気持ちが逆立っていくのを感じた。そして、直感的に理解する。これは冗談なんかじゃない……。電話の向こうで何かが起きたんだと。
「どこだ!!彰人!どこにいる!!」
数分後、宏行は外を走っていた。心の中を言い知れぬ恐怖が埋め尽くしていく。それでも、かろうじて聞き取れた場所ヘ宏行は急いだ。
薄暗い公園に響く、荒い息遣い……。呼吸音の主は乱れる息も構わず大声を上げた。
「彰人ー!!どこだ!」
宏行の呼び掛けにも返事は無い。なおも公園を探し回っているとベンチの方から微かな呻き声が聞こえた。
「そこか!彰……!!」
呻き声のする方ヘ駆け付けた宏行は途中で言葉を失う。それは、ベンチの側に横たわる彰人の片腕と片足が明らかに不自然な方向に曲がっているのを見たからである。
「しっかりしろ!何があったんだよ!?いや、喋らなくていい。今、救急車呼ぶから……」
宏行は急いで携帯を取り出し番号を押そうとすると、突然手首を掴まれて驚いて振り返った。彰人は目を見開き、必死の形相で宏行を見つめる。
「宏行!……はぁ、はぁ……気ぃ…つけろ……。噂は…ホントだった……」
「何言ってんだよ?よくわかんねぇよ。とにかく喋んなって……」
「いいから聞け!!……はぁ、はぁ……俺は見たんだ……確かに、女だった。……しかも、ソイツは……ソイツは……」
そこで彰人は崩れる様に意識を失った。その後、宏行は警察が来るまでの間、呆然と立ちすくんでいた。耳に残る彰人の言葉……
(しかも、ソイツは…)
一体誰だって言うんだよ?頭の中に渦巻く疑問、彰人は何を言おうとしていたんだろう?やがて静寂を破る様に、遠くから微かにサイレンの音が聞こえて来ていた。
第二章に続く