THANK YOU!!-2
「だ、だって、頼まれたし・・!」
「でも気に食わないなら断ればいいじゃん」
「こ、断れない雰囲気だったじゃん!」
「別に普通のクッキーしか作れないって言って受け流せたよね」
「・・・・」
顔を真っ赤にさせて言葉が告げられなくなった瑞稀を見て、秋乃は苦笑した。
「(本当、これで鈴乃が好きって気づいてないんだから呆れる通り越して凄いよ)」
あのバレンタイン以来、関係が進んだかというと、全くそんなことはなかった。
むしろ瑞稀の無自覚さや鈍感さは鈍くなった。
恐らく、恋愛対象の存在として見るには既に二人の距離が近すぎていたのかもしれない。
傍にいる事が当たり前、ずっと一緒に居れるのだと疑えない。
そんな距離。
以前、秋乃は拓斗に「境界線を行ったり来たりしている」と告げたが、もうその時には、境界線を越えてしまっているんじゃないか。
もしかしたら、瑞稀は理解していないだけで本当は心のどこかで気付いているんじゃないのか。
自分が、拓斗の存在を求めているということを。
「・・・・」
「・・・・秋乃?どうしたの?」
「・・いや、何でも」
どちらにせよ、問いただすことも説明することもしない。
これは二人の問題で、第3者である自分が入る事はしたくない。
せめて、悪い方にいかない事を願いたい。
そう頭で結論を出した秋乃は小さく笑った。
「・・明日で、こんな風に鈴乃のことで一喜一憂してる瑞稀を毎日見れなくなるんだなと思ってさ」
その言葉を聞いた瑞稀は赤くなっていた顔を、曇らせた。
明日、3月15日は瑞稀たちの卒業式。
六年間通った場所から旅立つ日だった。