「未来日本戦記」-9
「ごほっ!ごほっ!」
隊長は咳込みながら、心を睨む。
「よ…容赦しない、んじゃ…なかった…」
「普段の俺ならな。だが、今回はそうもいかないのだ」
「なに…?」
「俺はお前が気に入った。得し者なのに、俺に抜刀させないほどの腕の持ち主だ」
心は隊長を起こすために手を出す。
しかし、それを掴む手は来ない。
「どういう…事だ」
「俺達が東京を支配した後、兵は俺達が仕切る事になる。よければ、またこの部隊の隊長をやってもらいたい」
心は手を引っ込めず、待った。
「……」
「嫌ならいい、誰も強制はしない。しかし…」
心は笑顔で言う。
「お前のような者とは敵としてではなく、友として会いたいものだな」
その笑顔に際立って目立つ、刀傷の跡が付いた閉じられている瞼。
おそらく、その奥の瞳は、もう役に立たないんだろうと感じる。
「…東京を支配してどうする?」
まだ小さいが、落ち着いた声で喋る。
「俺達の目標ため、この世を直すため」
「世を?」
「こんな争いの世は、何も生まない」
「……」
隊長はその言葉に反応する。
そして目の前の手を掴み、立ち上がる。
「勘違いするな、俺もこの世が嫌いなだけだ。そのために、お前等と手を組むだけだ」
「それでもいい。敵対されるよりは嬉しいからな」
そう言い残し、心は都庁を目指し走り始める。
その背中を見ながら、隊長は近くの兵に言う。
「俺は、隊長失格なんだろうか」
「え?」
「東京を守れなかったのに、あいつと一緒に世直しをするのもいいなって思っちまった」
そう言って隊長はゆっくりと歩き始める。
向かう先は都庁。
この戦いの最後をその眼で見届けるため、一歩一歩踏み締めながら、ゆっくりと歩いていく…。