「未来日本戦記」-13
「い、一斉攻撃だ!」
兵が仲間に助力を求める。
そして舞に向かって四本の刀が同時に振り下ろされる。
舞は体を反り、両手を広げ、足を軽く縦に開く。
「第三の部・風」
体をくの字に折る、それと同時に横へ捻る。
右の扇で一本、二本。
左の扇で一本、二本。
四本全て防ぐ。
だが、弾くのが精一杯。
すぐ次の斬撃が来る。
左前方からの上段打ちを、右手の扇で防ぐ。
右後方からの中段打ちを、左手の扇で防ぐ。
腕は体の前後を挟むように通している。
体を捻り、腕のねじれを解く。
そしてすぐ、手首を器用に動かし、相手の刀を巻き込むように絡め取る。
刀は宙へ投げられ、風を切りながら飛んでいく。
刀がなくなった兵の一人はそれを取りに行く。
舞はもう一人の方に、とりあえず吸気を試みる。
他の兵が仲間を守ろうと前に出る。
だが、『風』になってからの舞は『花』『鳥』とは段違いの早さでステップを踏んでいる。
激しいが、不思議と舞いにしか見えない。
その疾風の舞いで、刀を構えた兵の間を、くるくる横に回りながら進む。
すれ違いの際、吸気もしておく。
刀のない兵の目の前。
膝を曲げ、飛んでくる拳を避ける。
そのまま前進。
肘を腹部に打ち込む、ならびに吸気。
三人の兵は倒れる。
横目で、落下した刀を取りに行く兵を見る。
扇を一本、開きながら飛ばす。
それは相手の脳天を打ち、返ってくる。
凄まじい遠心力を秘めた鉄扇を受けた兵はそのまま倒れてしまう。
気付けば兵は、逃げたか倒したか分からないが、いなくなっていた。
居るのはただ一人。
腕を組んでいる隊長と思われる者。
その近くには六尺(約180センチ)ほどの棒が、地に突き刺さっている。
それを引き抜き、隊長は口を開く。
「やってくれたな、戦舞い使い」
「あなたが隊長?」
「そうだ。お前の戦い方は把握した、一筋縄ではいかないと思えよ」
ひゅん、と棒で風を切る。
「『花鳥風月』第四の部・月」
舞の舞いが激しくなる。
扇を開き、空気と一体化するような可憐さで、体に重さがないように錯覚させる舞いを舞う。
それでいて早く、力強く、そして舞う本人を何倍にも綺麗に見せてくれる舞い。
見事に、舞いと戦いの両方に隙がない。
「しっ!」
隊長が渾身の力を込め、風を貫く打突を放つ。
「はっ!」
初めて舞が気合いを入れて扇を振るった。
鉄扇は、高められた気によって神速の領域に入っている。
迫る棒を、扇で鎌鼬のように斬った。
「扇刀」
舞が言う。
「だからどうした」
隊長は短くなった棒を引き、再び放つ。
棒の断面が、光った。
(気の光!?)
咄嗟に扇で、棒の延長上を塞ぐ。
そして、ずんっ、と重々しい音を立て、気の円柱が舞の腹部を穿つ。
少しだけ、吐血。
扇は攻撃を防ぎきれず、宙を舞っていた。
それを掴み、距離をとる。
「どうした、もっと気を取り、強くなるつもりか?」
「あいにく、他人の気は長い間取り込んでいられないんだよね。それに、もう兵は居ないし」
隊長は気の棒を構える。
「お前は、体に流れる気を取るみたいだな。だから、直接これの気は取れない。だろ?」
「御名答、よく見てるね」
「そして、リーチの差でお前は俺に近づけないと」
隊長は、自分の間合いを示すかのように、棒で弧を描く。
「俺の越えし力の方が勝ってたという訳だ」
隊長は気の棒を、舞の顔面めがけ放つ。
…棒に抵抗を感じる。
まるで、空気の壁があるような、そんな感覚。
威力が弱まった突きは、舞に止められる。
「吸った気は、出さなきゃいけなくてさ」
舞の扇が光る。
「そゆ訳で、あんたの兵達の気を存分に喰らいな!」
扇から湧く大量の気…いや、風。
それは莫大な質量を秘めている。
「く…あぁ!」
人間一人なんか簡単に吹き飛ばしてしまう。
隊長は風に乗り、空高く飛ばされてしまう。
だが、舞も鬼じゃない。
ここから見える、東京タワーに向かって飛ばしておいた。
「あの人の力量なら助かるよね…たぶん」
曖昧な言葉。
心の中で「助かってますように」と祈ってからラジカセを回収した舞は、皆との集合場所になっている、都心のある建物へと向かって走り始めた。