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「未来日本戦記」
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「未来日本戦記」-11

男は上昇を止め、懐から新たなクナイを取り出す。
「次で終わりにしようよ」
漆が言う。
「それじゃあつまらないよォ」
もはや上空といってもよい所にいる紫の男に、漆は再び言った。短く、自分が今思っている望みを。
「僕は急いでるんだよ?」
笑顔でそう言った。
しかしその瞳は曇りない無機質なモノである。
男の背中を、何かが走った。
「…しょうがないねェ、名残惜しいけどそうしてあげるよォ」
二人はそれぞれの武器を構える。
すると、紫の男は突然笑い出した。

「ひひひひ…いいねェ、この緊張感…絶頂に上りつめるような感覚ゥ、何か来ちゃうよォ」
「…本当に気が合わないね」
「構わないさァ、あんたはアタシに血を見してくれればいいのさァ…!流れる真っ赤な血をさァアア!!」
男は急降下してくる、それは弾丸の如し。
そこから放たれるクナイは、もはや光。
漆は自分に当たる物だけを、気のクナイでたたき落とす。
クナイ同士が回転しながら落下を始める。
それを弾きながら進んでくる紫の弾丸。
漆は交差した忍者刀を向ける。
「血ィイイ!!」
直感で、この刀では、アレを受け止めきれないと判断する。

だが、避ける暇もない。まさに刹那。
その一瞬で、自分の持つ動態視力を最大限に発揮する。
弾丸が持つ刀をしっかり捉らえた。
そこに刀を合わせる。
衝突寸前。
漆は両手に力を込めた。
その瞬間、激しい金属の衝突音と擦過音。
ひどく耳障りだ。
「嫌な音」
漆は小さくぼやく。
両の刀は男の刀をしっかりと受け止めていた。
「な…んで壊れないィ?」
「愚かだね」
漆は無機質な瞳で笑みを作る。
その手に握られる刀は、薄く光り輝いている。
「まさか…気をォ!?」
「気の顕現化はこういう使い方があるんだよ」
刀を包む気、一時的に強度を上げる技。

「気鋼術(キコウジュツ)。気を鋼のように堅くする術だよ。実は、クナイの方が応用編だったんだ、残念だったね」
漆の持つ刀に纏った気は、刀から男の腕へと移動する。
「んっ!く…!」
「無駄だよ、強度を保持したまま動かしてるからね」
それは気の手枷になる、ついでに足もそうしておく。
もう、動けない。
男は必死に腕の枷を外そうとするが、鋼より強力な強度を持つ事を知る。
「ひ、ひひひィ…ま、待ちなよォ、助けてくれたっていいじゃないかァ。似た者同士だろォ?」
「似てるけど、細かい所は似てないね。まず…」
漆の、心ほどじゃないが、刹那の無数の斬撃。

その全てが、男の体を縦横無尽に傷つける。
男の中に流れていたものかと思うほど綺麗で、そしてこんなに詰まっていたのかと思うほどの、大量の鮮血が飛び散る。
「ぎゃあァアア!」
「僕は流れる血より飛び散る方が好きだな」
霧のような返り血を浴びて嬉しそうに言う。
「綺麗な紅色の華みたいでしょ?そしてこの色は真っ赤じゃない」
指に付いた血を嘗める。
「まさに真紅。真紅のワインだ」
それを美味というように嚥下する。
そして刀を構える。
光を帯びて、動いた。
「た…!!」
男の首が飛ぶ。
宙で唇が「すけて」と動く。
漆は自分の世界に浸る。

「まるで溶けたチョコように滑らかな光沢を放つワイン…ぁあ」
男の首から出るモノをシャワーのように浴びる。
眼は溶けそうで、頬は紅く染まり、体は火照ってきている。
「気持ちィィ…っ!くぁあ!」
体が痙攣し、その場に倒れるようにしゃがみ込んだ。
火照っていた体は、力が抜けたようにだらんとしている。
「あっ、はぁ…はぁ…」
荒くて甘さが混じった声で、最後に言った。
「そして…僕は女が嫌いだよ、変態さん」
遠くに落下していた男の顔は、ただの肉塊になっていた。
「い、行かなきゃ…」
無理矢理立ち上がり、漆は都庁を目指し、歩き始めた…。


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