(春編)-4
それは、ある日曜日の昼下がり…
私はいつものように商店街の一角でタロット占いをやっていた。
占いの仕事が暇なときは、私はネットのSM官能小説なんて読むことが多い。SMクラブで長
くM嬢をやっているせいか、ふつうの官能小説よりSMものは好きな方だ。
お気に入りは、投稿小説サイトに掲載される、「谷 舞子」という新人作家のSM官能小説だ。
少し風変わりなSM小説なので、最近はこの人の小説に夢中になっている。それに、私は、
彼女が書いているブログ「谷 舞子のSM官能小説雑記帳」の愛読者でもある。どんな女性な
のか一度会ってみたいなんて思っている。
近くの公園へ続く桜並木の小枝が、急に吹いてきた春風に揺れる。すでに散りは始めていた桜
の花びらが、一瞬、紙吹雪のように宙に舞い上がり、春の霞んだ青い空に運ばれていく。
お昼どきなのか、商店街の人通りが途絶えたとき、あまりに暇なので、私は久しぶりに自分自
身の占いをやる。開くカードが、なぜかいつもとは違っていた。
…えっ、ほんとうかしら…
何度やっても、同じ絵柄のカードがでる。どうせ、あたりっこないわ…と、ため息をついたと
きだった…。
「今、空いていますか…よかったら、ぼくの結婚運勢を占ってもらえませんか…」
不意に声をかけられ、見上げた人は、はにかむような優しげな笑みを浮かべたハンサムな男性
だった。背の高いその男性は、年の頃は私とあまり違わない感じだ。紺色のスーツをスラリと
着こなし、日曜日というのに仕事なのか、黒い鞄を手にしていた。
いい男だ…。久しぶりにガキやオジサン相手ではない占いだった。
「えっ、ええっ…いいですよ…結婚運勢って…まだ、独身なんですね…」
彼にうっとりと見とれながら、私の胸の鼓動が久しぶりに高まってくる。彼と話をしながら、
舌がうまく回らない。占うのために聞いてみると、彼の誕生日は、私となぜか相性のいいもの
だった。カードを持つ手が緊張しているのが自分でわかった。
あれ… このカードって…。
開いたカードは、私がさっきまで自分を占っていたとき、何度も開いたカードと同じだった。
「すみません…もう一回、やり直しますね…」
あわてた私は、タロットカードをもう一度シャッフルする。彼は、おだやかな視線を興味深そ
うに私の手元に投げかけている。カードを手にする私の指が小刻みに震えていた。