〈惨華(さんか)〉-5
彩未も中学生で思春期真っ盛り。
好きな異性はもちろん存在していた。
だが、それは胸の中だけに仕舞い込み、決して表には出してはいけない事だった。
今手にしている服は、好きな異性の何気ない一言を聞いて選んだ物。
友達とではなく好きな異性と一緒に歩く時に着たかった服だ。
でも、“その時”は永遠に訪れる事はない……周りの大人達が自分を推してくれているのも知っているし、その事への感謝の気持ちも持っている……恋愛の為だけに、仕事を放棄するなど出来ようがないのだ。
薄手の白いタートルネックのセーターに腕を通し、チュニックワンピースに身体を通した。
それは恋愛を諦めると言うよりは、吹っ切れて前へ進む為だった。
いっそ叶わないなら未練を持つ必要もない……小さな胸の小さな決心が、この服を纏わせたのだ。
「行ってきま〜す」
急に沸き上がる胸の苦しさを紛らわすように、明るく家を飛び出した。
この苦しみは、きっと友達との時間で癒えるはず……ちょっとだけヒールの高いブーツを履くと、彩未は表へと駆け出した。
家を出ると道は直角の右カーブになり、その先は、なだらかな直線の下り坂になる。
更にその先は十字路になり、大通りへと繋がっている。
狭い路地。直角カーブの先に、二台の白いミニバンが後部を向けて止まっており、その道を塞いでいた。
その周囲には、数人の中年男性がウロウロと歩いていた。
(あんな所で何してるんだろ?)
怪訝に思いながらも彩未は歩みを進め、友達の待つ駅までの道を急いだ。
いずれにしても、この道を通る以外に行く道は無いのだ。
『ああ、ゴメンね。ちょっと泥濘っちゃって』
近づいてきた彩未に、一人の男が声を掛けた。
見てもミニバンは傾いている様子もなく、タイヤも埋まっているようでもない。それに路地の隅ぎりぎりに止まってはいるが、しっかりと砂利道の上に停車している。
大通りは開けて見えるが、進むべき前方の道には人影は無い。
振り向いても、その先には自宅への道でしかないし、しかも直角カーブの先からはココは見えない。
ほんの少しだけ、彩未に不安感が生まれたが、その歩みは駅を目指す事を止めなかった。
比較的に空いていたミニバンの右側を通り抜けようと進むと、そのスライドドアが開いている事に気付いた……彩未は理解した……ミニバンの右側は大通りからは死角に入り、自分の姿は周囲から消える……前と後ろから何者から駆けて来る音が聞こえ、スライドドアの奥から人影が飛び出してきた……とっさに身を屈めて防御の姿勢をとったが、それはミスチョイスでしかなかった。
「キャ…!?…も"う"ぅ"!!!」
小さな少女の顔面は、オヤジの大きな掌に覆われ、そしてその掌には薬品の染み込んだタオルが掴まれていた。
僅かに湿るタオルの意味を、彩未はすぐに気付いた。
そのタオルを引き剥がそうとした腕は、襲い掛かるオヤジ達によって掴まれてしまい、あとは呼吸を停止する以外に手立てが無くなってしまった。