〈惨華(さんか)〉-4
『あそこを曲がってずっと先に、彩未ちゃんの家がありますよ』
長髪男の言葉に、オヤジ達は色めき立った。
『……よし、あの道曲がったらその先で狩るぞ』
リーダーは久しぶりの狩りに興奮したのか、かなり声は上擦り、呼吸も荒くなっていた。
彩未は長髪男の言う通り、道を曲がって歩いていく。
古い家屋を取り壊したのだろうか。
まだ雪が残る不自然な広場が点在する路地で、そこへの侵入を防ぐ為に杭が打たれ、ワイヤーが張られている。
いかにも田舎な狭い砂利の敷かれた路地を、彩未の後を追ってミニバンも曲がった……と、急速に冷えてきた路面はガチガチに凍っており、薄い皮膜のように覆っていた氷は、バリバリとけたたましい音を発ててしまった。
「?」
振り返る彩未。それにも関わらず狩ろうとした視線の先に、数人の人影が見えた。
どうやら帰宅途中の男子高校生のようだ。
『クソッ!!……駄目だ……』
ミニバンは彩未の横を素通りし、憎らしい男子高校生達を睨みながら狭い路地を抜け出した。
全く気付かないまま、彩未は危機を逃れた……しかし、まだまだ過ぎ去ったわけではない……一度狙ったなら、諦める事を知らない奴らなのだから……。
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約束の日曜日の朝。
付け狙う影を知らない彩未は、今日の休日を満喫しようと気分は盛り上がっていた。
朝早くに起き、シャワーを済ませ、クローゼットの前へ。
(どれにしようかな?)
モデルの仕事もしている彩未のクローゼットは、思いの外揃えは多くなかった。仕事で実際に着るのは準備された物ばかりで、自分の衣服での撮影など有り得ない。
それでもオシャレには気を遣いたい彩未は、本当に気に入った服だけを買い、いわゆる衝動買いはなかった。
数は少ない。しかし、その服は可愛らしい物ばかりで、どれも彩未の魅力を存分に引き出す物ばかりだ。
(…………)
彩未は一着の服を手にとると、身体に重ねて鏡の前に立った。
黒い素地にピンク色の小さな花が散りばめられたチュニックワンピースだった。
キッズファッションモデルにユニットアイドル。
まだ子供である彩未にも、事務所は恋愛禁止の通達を出していた。
彩未に期待するものは、子供らしい可愛い魅力と、アイドルとしての清純さだった。
憧れの芸能人の話ならいざ知らず、どこの馬の骨とも知らぬ異性との話題など必要なく、むしろ害悪でしかなかった。