投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

One lives
【その他 その他小説】

One livesの最初へ One lives 0 One lives 2 One livesの最後へ

One lives-1

あまりの頭痛に、近くにあるベンチに腰を下ろした。
一ヶ月ぶりに浴びた太陽の光は、やはり僕を追い詰めていく。
頭痛が止まらない。
顔色の悪い僕の前を、たくさんの他人が通り過ぎていく。
彼らは、何のために生きているのだろうか。
『やぁ、久しぶりだね』
言って、彼は僕の隣にふわりと腰を下ろした。
『もう諦めたのかと思ったよ』
頭痛は、更に激しくなる。
『なぁ、この世界には一体どれくらいの人が暮らしているのだろうね』
何かに急かされるように過ぎていく人々を見ながら、僕は答える。
「さぁね。五十億とか、それくらいじゃなかったかな」
『それじゃあ、君に関わっている人たちは、どれくらいだろう』
僕の視線と揃えるように、彼は中空を眺めている。
僕に関わっているひと?
空を見上げる。
太陽が我がまま顔で輝き続けている。
その、あまりの身勝手さに吐き気すら覚える。
アレが、僕を狂わせるんだ。
『どうした?』
「いや。考えていただけさ。僕に関わっているひと。多くても数十人単位だろうな」
『そのなかで、君を本当に必要としてくれるひとは?』
必要とする?
僕を?
誰が?
ガンガンと頭の中に響く。
もう駄目だ、と。
『つらそうだね。まぁそんなに考え込むこともない。答えは、また今度にでも聞かせてくれ。もう行きなよ。君には無理だ。何度も言っただろう?無理なんだ。見てみろ。目の前の人たちを。みんな元気に動き回っている。けれど君には出来ない。日の光を浴びたら、君は身動きが取れなくなる。何度試したって同じさ。』
よろよろと僕は立ち上がった。
『君は特別なんだ。それを認めればいいんだ』
彼の言う通りなのだろう。一ヶ月ぶりに目にした昼間の世界は、僕を受け入れることなく。
僕は何のために生きているのだろうか。

もう、僕は夜に眠ることが出来なくなった。朝眠りについて、夜に行動を始めるという習慣をつけてしまったからだ。けれどそれは当たり前の話で、生きていく為には、そうせざるをえない。
僕は太陽の光が怖い。
それはいつからだったろうか。
光が脳髄に浸食し、寄生し、洗脳する、その感覚。
収まらない頭痛と共に、彼がやってくる。
気がつけば他人との接触を必要としない、夜の生活に堕ちていた。

「いらっしゃいませぇ!!」
店に入るなり、その怒号のような掛け声に面を喰らう。
「あ、レイ、こっちだよ」
僕を見つけるなり、彼女は大声で叫んだ。もう出来あがっているようだ。
「何杯?」
顔の赤い彼女に言いながら、腰を下ろす。
「まだ生中、四杯だけだよ」
まだ、ねぇ。
店員がやってきたので、オレンジジュースを注文した。
「これから仕事?」
彼女は、その様子を見るなり尋ねてきた。
「そうだよ。夜十時から朝四時まで」
「大変ですねぇ」
「そうでもないよ。僕には最適な仕事さ」
僕は警備員の職に就いている。もちろん夜勤専用だ。夜に仕事に出たい人など、僕以外いない。だから仕事はいくらでもある。毎日の様に月が出る頃に仕事を始め、朝日が出る前に家に帰る。
「最近、外には出てないの?」
「今もこうして出てきてるけど?」
「違うわよ。そういう事じゃなくて」
言って彼女は、ジョッキにあるビールを飲み干した。
「分かってるよ。昼間に、だろ?」
彼女は、こう見えて看護婦である。最初に会ったのは、当然病院の中だった。こうして個人的に会うようになって、もう二年近くになる。
「昨日、久しぶりに出たよ。どうしても外せない用事があったからね」
そう言うと、彼女の目の色が変わった。
「どうだった?」
「いや、やっぱり駄目だったよ。変わりなく」
目に見えてガックリした様子を見せる彼女。アルコールが入るとオーバーリアクションになる、という訳でもなく、これが彼女の性格なのだ。
「頭痛がするの?」
「あぁ、あと吐き気も」
う〜ん、とうなる。
「あ、お兄さん、生中追加ねっ」
そしてまたう〜ん、とうなる。
どうして彼女は。
僕は思う。
どうして彼女は、人のことを親身に考えることができるのだろう。
「レイ、隣行って良い?」
すっかり赤くなった顔で、彼女はそろそろと近寄ってくる。そして寄り添い、頭を僕の肩に預けた。
どんなに考えても、きっと分からない。
君には、きっと分からない。
だって僕にだって分からないんだ。
この世界と、どう付き合っていけばいいのか。


One livesの最初へ One lives 0 One lives 2 One livesの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前