THANK YOU!!-6
瑞稀は、図書室に居た。机にノートを広げて。
別に勉強をしている訳じゃない。その証拠に、ノートが広がっている真向かいの席で瑞稀はずっと小説を読んでいる。
このノートの持ち主である幼馴染みの千晴は、今どこかへ行ってしまっている。
ふと壁にかけてある時間をみると、もう一時間経とうとしていた。
瑞稀は小説を閉じると、それを仕舞う為に本棚へ向かった。
その途中で、この二週間出し入れをしていた参考書の棚で足を止めた。
と言っても瑞稀自身の為でなく、幼馴染みの千晴の為だった。
4日の受験で絽楽学園中等部へ入学を決めた瑞稀に、千晴が受験の為の勉強を教えて欲しいと言って来たのだ。
最初は断ったのだが、どうしても算数だけが平均を取れないと頼み込まれてしまい、断れなかった。
そうなってからは毎日図書室で勉強をしていたのだが、何故か今日はいきなりどこか行ってしまったきり帰って来ない。
「・・なーにやってんだか・・千晴は・・」
ため息をついて、止めていた足を小説のある本棚へと向けた。
6年通ったこの場所に、もう読んでいない本など無い瑞稀は再び溜め息をつくと大人しく席に戻った。
何をするわけでもなく、ただ机に頭を伏せる。
もう、このまま帰ってしまおうか。
そう考え始めた時。瑞稀の頭にやや強い衝撃がぶつけられた。
「いったあ!!」
思い切り顔をあげた先にいたのは、拓斗だった。
ただ、ランドセルを背負っていない。
そんなことにはまだ気づいていない瑞稀は頭をさすりながら拓斗に文句を言った。
「ちょ、何すんの!痛いじゃんか!」
「・・文句言いたいのは俺の方なんだけどな」
「何で!?」
今理不尽に何かで殴られて文句を言っているのに!という言葉を省略する。
拓斗の手に持っているものが見えたからだ。
「・・・何、それ」
「・・見てわかるだろ。ポッキー。」
「・・・・それ、箱だよね。」
「・・だから見てわかるだろ」
「・・・・・・」
そう、拓斗の手には・・皆おなじみ、赤い箱のポッキー。
だが、今の瑞稀には、中身などどうでも良かった。
「・・箱で殴るからこんな痛いんだよ!?凶器だ!!」
「分かってるよ。」
「わかっててやったの!?」
「当たり前だろ」
「はああ!?」
拓斗の言葉に、瑞稀は異常なまでの反応を示す。
ここ最近。拓斗が瑞稀に対して扱いがすこし冷たくなっていた。
そう、瑞稀が受験に合格した辺りから。
瑞稀は、自分のせいだから仕方ないと思っていたのだが、今日の仕打ちには黙っていられなかった。