失恋の夜〜乱れた友情〜-6
優介を部屋に招き入れ、冷蔵庫から麦茶を出して、ベッドの脇にある小さなテーブルに向かい合って座った。いざ話を聞いてもらおうとしても、何から話していいのかわからない。優介は落ち着かない様子で、何度も足を組みかえたりして座りなおしている。背が高く大柄な優介に、この部屋は少し狭そうだった。
「ごめんね……椅子とか無いし、座りにくいでしょ?」
「や、そうじゃないんだ。あのさ、俺、あんまり女の子の部屋とか入ったことなくて、こう、緊張するって言うか……」
「えっ? 意外。優介って女の子の友達多いじゃない。けっこう遊んでるのかと思った」
明るくて面白くて、スポーツも勉強もそこそこ得意な優介は、中学校の頃から女の子たちに人気があった。大学の頃も、合コンの幹事をたびたび頼まれてやっていたのを知っている。汗に濡れた前髪をかきあげながら、優介が少し怒ったような顔をした。
「遊んでるとか言うなよ、失礼な。俺はこう見えても、いちずなんだよ。好きな子のことだけを大事に想い続けてるんだ」
「えーっ、なにそれ、初めて聞いた。誰、誰?どんな子?ねえ、教えてよ」
「い、いいよ。今日は俺の話じゃないだろ」
何かふざけた答えを返してくるかと思ったら、赤い顔をしてうつむいた。こんな優介の様子は初めて見る。愛美はそれが面白くて、テーブルに身を乗り出して優介の顔をのぞきこんだ。
「いいじゃん、ケチ。教えてくれたってさぁ……わたしの知ってる子?ねえ、ねえ」
「教えない。もういいだろ?こんな話、やめようぜ」
今度はうつむいたまま、愛美に背を向けて背中を丸めてしまった。耳が真っ赤になっている。なに、こんな優介、可愛いじゃない。もっといじめたくなって、愛美は何度も「誰?誰?」と聞き続けた。
すると、小さな声で優介が何かをつぶやいた。よく聞こえない。
「……だよ」
「え?なに、聞こえない」
「愛美だよ。俺、おまえのことが好きなんだ」
「えっ……」
振り向いた優介の顔は、真剣そのものだった。耳から頬までを真っ赤にして、もう一度「愛美のことがずっと好きだった」と言った。