第11話 最後の晩餐-3
「そう・・・つまり初めてのお相手を頼まれたのよ。川端さんは、陽一さんの事を全てお見通しだったわけなのよ」
「それじゃあ・・・部長は、僕がまだなのは・・・・・・」
「当然よ・・・私も川端さんに聞かされて知ったんだから・・・・・・。何となく女性が苦手なのは分かってたけど・・・まさか初めてとかは思って無かったわ・・・・・ふふ」
玲子は、あどけなく笑って見せたが、陽一の心中は複雑で、全てが川端の手の平にある事を実感していた。
「でもね・・・川端さんは私にお願いする時に、頭を下げたのよ。しかも・・・現金もつかまされたの・・・・・・。多分・・・高級なお店で遊んでも、おつりが戻るくらいの金額かしら?。それじゃあ、私もプレッシャーになるから、受け取るのを拒否したけどね」
「そんな・・・だったら、部長に頼まれたから僕のことを?。」
「そうよ・・・全てシナリオ通り・・・・・と言いたい所だけど、私が陽一さんに対する気持ちだけは本当なのよ。だから、お金を受け取る道理なんて無かったの。陽一さんに抱いてもらうのは、本望だったから・・・・・・」
玲子は、昨晩のみだらな姿とは打って変わって、恥じらう様に頬を赤らめて俯いていた。
その姿が年増の割には、か弱くもいじらしくも見えて、陽一は思わず、玲子の肩に手を回して手繰り寄せていた。
それに対して玲子も、自然に陽一の胸元に顔を寄り添って気持ちを返した。
「なら良かった・・・僕もママと一つになれて幸せです」
「ふふ・・・だったら川端さんに感謝しなくちゃね。本当に、陽一さんの事を心配してたのよ?・・・仕事に覇気が感じられないって・・・・・・。」
「そうでしたか・・・全て部長はお見通しだったわけですね。確かに、仕事に関してストレスを感じてたのは事実です。さらに追い打ちを掛けてたのは、女性の事でした。この年になってまだなのは、取引先の接待とかで凄く苦痛でした。何とか誤魔化してきましたけど、限界も感じてました」
「それで、私にお願いした分けね・・・少しでも陽一さんのストレスを和らげようって・・・・・。でもね・・・川端さんの様な地位のある方が、私の様なやさぐれな水商売の女に頭を下げるなんて、よっぽどな事よ?。だから、そんな気も知らずに、川端さんの事を悪く言うものだからからつい・・・・・」
「結局、ママも全てお見通しだったわけですね」
「まあ、そう言う事になるわね。でも・・・私も馬鹿よね。とりあえず陽一さんに抱いてもらえるから私的には、それで良かったんだけど、つい欲張っちゃってね。せっかくだから弄ぼうと思ってしまったの・・・それが良くなかったのよね。」
「いいえ・・・逆に、それで良かったと思います。あのまま抱いていたら、僕はママに逃げてばかりで終わってました。あの時、ママに指摘されたから僕も自分の愚かさに気付いたんだと思います。まあ・・・色々とママには醜い事をしてしまいましたけど、今は僕の悪い膿を絞り出してもらったような気分で、スッキリしました」
「ふふ・・・それは膿だけかしら?。ほら?・・・もうこれだけよ。本当、何回も求めて来るから私も大変だったわ・・・・・ふふ」
玲子は、鏡台に置いてあった一枚っきりのコンドームを見せつけた。
「だって、ママが魅力的だから僕のだって思わず・・・・・・」
陽一は、玲子の腰に手を回すとくびれを摩った。
思わず、陽一に掛けられている毛布の一点が膨らんだ。
「もう・・・陽一さんたら、またなの?。駄目よ・・・今日の朝から何も食べてないんだから、このままじゃ身体に毒よ。さあ・・・せっかくのカレーが覚めちゃうから行きましょう」
玲子は膨らみに気付いたが、まともな食事も取らないで食欲よりも性欲に走る、陽一の身体を気遣っていた。
「僕は、もう我慢が出来ないんです」
「分かったわ・・・でも・・・その前にお食事だけはしておきましょう。このままじゃ身体を壊すわよ?。その後だったら、陽一さんのお好きなように、いくらでもお付き合いしてあげるわ」
「大丈夫です。僕に取ってはママが栄養の源・・・ママを食べれば元気が出ます」
「陽一さんたら・・・私を何度壊せば気が済むの?。もう・・・良い加減、私も歳なんだから、そう何度も・・・あっ!?・・・・・・・」
陽一は、いきなり玲子に唇を重ねると、ベッドの中に引きずり込んでいた。
そのまま、着衣の上から玲子の身体を確かめると、お互い口づけを交わしだした。
しばらくして、陽一は玲子を落とすと、鏡台の上の最後の一枚を握りしめていた。
これが陽一に取っては新たな出発でもあり、玲子で迎える最後の至福でもあった。
再び、二人が至福を確かめ合う時は、しばらく後の話だった。