沖縄の幻-1
ミヤちんだったらどうしてるだろう?ふと、いつも楽しそうなミヤちんが頭を過った。ミヤちんはいつもその場の雰囲気を目一杯楽しんでいる。あたしもあんな風に楽しめたらいいのに。
ぎこちなく体を動かしながらナツくんに目を向けると、意外と背が高いことに気付いた。見上げた時のナツくんの顔はミヤちんと同じように楽しそうだった。
その楽しそうな目を見て、あたしも踏ん切りが付いた。もういいや!今は考えても解らない!あたしも今を楽しもうっと!
知っている曲ばかりだったので体は勝手に動く。周りの目も気にならない。ひたすらナツくんの嬉しそうな顔を見ながらあたしも単純に楽しんだ。
激しいテンポの曲が何曲か続いたあと、局は唐突にスローなテンポに変わった。
あ、ゴーストの曲だ。ミヤちんと試写会を観に行ったことを思い出す。
自然とナツくんの手があたしの手を取った。汗ばんだ彼の手に触れた途端、ドキドキが最高潮に達した。
「もう会われへんと思てたから夢のようや」
ナツくんは曲のゆったりとしたテンポに合わせてあたしをリードしながら耳元で囁いた。少しくすぐったい。
「昨日、誰かさんが変なことするからやんか」
あたしは体を強張らせながら言った。
「変なことちゃうで、オレは真剣なんやからな」
「出会って二日しか経ってないねんで」
「時間は関係ないねん。密度が問題や」
ナツくんはそう言ってあたしの体を少し引き寄せた。
「ちょ、ちょっと、アカンよ」
口ではそう言いながらナツくんの強引さに体の硬直を増しはするが、抗えることは出来なかった。
ぎくしゃくしながらも、あたし達はしゃべるのを止めてデミ・ムーアとパトリック・スウェイジのように曲の流れに身を任した。
やがて余韻を残したまま曲は静かに終わった。しばらくすると曲調が激しいテンポに戻ったのを機にあたし達は席に戻った。
「ふー、楽しかった♪」
「チョット強引やったけどね」
あたしは少し睨みながら言った。
「えっ?何の事?」
「とぼけない!」
「あんなモンやと思うけど」
「そうかな?」
「そうそう」
「う〜ん…」
「なあ、ここもいいけど、ちょっと静かなところに行かへん?」
「うん」
素直に頷いた。高揚感溢れるこんな場所もいいけど、あたしは静かなところでもっと話がしたかった。自分の気持ちがどこに有るのか落ち着いたところで知りたかった。