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私の夏
【青春 恋愛小説】

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沖縄の幻-2

 店を出ると歓楽地特有の喧騒があたし達を包み込む。

 あたし達は喧騒の煩わしさから逃れようと歩きだすと、それらはまるで別次元のモノのようにあたし達の横をホワホワと通り過ぎて行った。さらに歩みを進めると、いつしか緑に囲まれた公園に辿り着いた。

 街燈の灯りを頼りに進むと備え付けのベンチが目に入り、どちらが言うでもなく自然と肩を並べて座った。座り位置は船で星を見た時と同じだった。

『見つめられている』と感じ、あたしも思い切って見つめ返した。さっきの店でサングラスを外したままのナツくんは、暗がりの中で精悍なマスクがほんのり見えてとてもカッコ良かった。またドキドキしてきた。

「ナツくん、今日はどうしてたん?」

 ドキドキを隠すようにあたしは普通の調子で聞いた。

「午前中は万座ビーチで後は観光かな?玉泉洞とかコブラとマングース」

「あっ、それあたしも行ったよ、マングース!コブラ可哀想だった〜」

「ニシキヘビ、首に巻いた?」

「ダメダメダメ!長いのはダメ!」

「アレはオレもドキドキやったな」

「あたしも」

「今はナッちゃんと2人きりでドキドキやけど」

 ドキン!

「あ、そ、そうだ、海が綺麗だったね。空も」少し慌てた。

「最初は綺麗やと思ったけど、途中から景色が色あせて見えたんや」

「どうして?」聞かなくても知ってる。

「横にナッちゃんが居らんかったから」

 ドキン!

「明日は一緒に泳ごうな」

「うん」

 あたしの気持ちが今後どうなるかは別にして今は同意見。でもその瞬間、 あたしは唐突に重大なことを思い出した。

「あっ!」

「どうしたん?」

「アカン。あたしら明日は慶良間の離島に移動なんや。朝から高速フェリーで」

「えッ!うそ!変更でけへんの」

「ツアーの日程やから無理やわ。ナツくんらは?」

「明日の夕方は和泉の、あっ、和泉って黒い服のヤツな、和泉のじいちゃんのところでご馳走するからって呼ばれてるんや。あいつの親って沖縄出身なんやて」

「そっか、だったらナツくんだけ慶良間に来る訳にもいかないね」

「え〜!折角の沖縄の海やのに、一緒に泳がれへんなんてガッカリや」

「ホントやね…」

 あたしもガッカリした。

「水着姿見たかったなあ」

 そう言いながら、ナツくんは無遠慮にあたしを上から下まで目線で撫でる。

「バカ!」

 イヤだな、また変な方向に行ったらどうしよう…

 色んな思いが交錯し、しばらくお互いに沈黙が続いた。

 そんな沈黙の静けさをすり抜け、どこか遠くで流れる音楽が静かに聞こえてきた。

 Unchained Melody

「さっきの曲やな」

 ナツくんはなんだか嬉しそう。

「そうやね」

 あたしもなんだか嬉しくなった。

「さっきのナッちゃん、デミ・ムーアよりも可愛かったで」

「またまたあ、あたしぎくしゃくしてたよ」

「もう一回この曲踊れへん?」

「ここで?」

「うん」

「う〜ん、でもさっきみたいに強引なんはイヤやなあ」

 なんだかヤバいかも…

「わかった。強引なんは無しや」

 そう言いながらナツくんは優しく微笑み、あたしの手をゆっくり引きベンチから立たせた。またあたし達は映画の2人のように触れ合った。

 でも、やっぱりさっきと同じように体が強張ってしまう。

「ナッちゃん、少し力を抜いて。まるでロボットダンスやんか」

「こう?」

 だらん。

「抜き過ぎ!豆腐ちゃうねんで」

 そのやり取りで少し緊張がほぐれた。

 力を抜いて曲を体で感じてナツくんのリードに任せる。今度はナツくんも強引に体を引き寄せることはしなかった。

 さっきと違いぎくしゃくした感じはしない。それよりもなんだか妙な安堵感に包まれて、心がとても静かになってきた。

 ようやく自分の心を見つめる事ができそうだ。

 しかし今度も余韻を残したまま、曲は静かに終わった。

 でも、ナツくんはあたしから離れようとはしなかった。

「曲、終わったよ…」

 あたしはナツくんの顔を見上げて言った。

「もう少し、このまま」

 ナツくんはそう言いながら、見上げるあたしの目を覗きこむ。

 あたしもナツくんの澄んだ目を見返した。あたし達は何も言わずにしばらく見つめ合った。やがてナツくんの優しい目がドンドン近づいてきた。

「ダ、ダメだよ…」

 あたしはそう言ったけど、ナツくんの優しい目から顔を背けることは出来なかった。

 ダメだよ、ファーストキスなんだから…

 その寸前、あたしは怖くて目をつぶった。

 そして、ゆっくりと重なる唇。

 頭が真っ白になった。


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