ブルーシールアイスクリーム-2
しばらくすると、木皿に乗った熱い鉄板の上でジュージュー焼けるステーキが来た。育ち盛りの女の子としては目の前の料理はとりあえず美味しそうに見えてくる。ついさっきまでの恥ずかしい感情も不思議と今は無い♪
あたしはステーキを食べながら、小姑みたいな友人達から恋愛指南を聞く羽目になった。ステーキに集中したいのに。それにナツくんに聞かれるんじゃないかとヒヤヒヤした。
「ナッちゃん、あんたはもう短大生やで。それに明日で19歳や。いつまでも中学生みたいにキスくらいでギャーギャー騒いだらアカン」
大人びたユーコが子供を諭すように、あたしの目を見据えながら言った。
「ホンマや、いつまでも子供ちゃうんねんからね」
このミヤちんのフォローは、少し説得力に欠けるけど。
「二日前に会ったばかりやで、そんな直ぐにキスなんて不純や」
「時間は関係ない。あんたがどう思ってるかが問題や。実際どうなん?」とユーコ。
「そんなんまだ、わからへん。気にはなるんやけど…」
「面倒くさい子やなあ、相手はあんたの事が好きやねんで。ハッキリしたらんと相手に悪いやんか」
「あんたがそんな煮え切らん態度してたら、男は待ちきれんと一気に迫ってくると思うな」
トモちゃんまで恐ろしい事を言った。
「そんなん困る…」
「ホンマにイヤやと思たら、引っ叩いて逃げたらええねん」
痴漢を引っ叩いて撃退したことがあるユーコは過激だ。
「昨日みたいに?」
「そう、でもその時は今日みたいにウジウジしたらアカン。綺麗さっぱり忘れるんや。でないと相手に失礼やからな」
「でも、引っ叩く前に、落ち着いて自分が本当はどうしたいんか自分の心に聞くんやで」
トモちゃんがあたしの目を覗きこみながら言った。
「自分の心に…」
でもあやふやなあたしの心が、その時にちゃんと答えてくれるかな?
「そう、その時にパニクらんようにしいな」
トモちゃんは少し心配そうな顔をした。
「あんたのこと心配なんやけど、さすがに付いて行く訳にいかんしな〜」
「えっ、ミヤちん、付いて来てくれへんの?」
「当たり前やないの、いつまでも保護者付きでどうするん」
トモちゃんもあきれ返った。
「ホンマに面倒くさい子やな。あの子と会って話がしたかったんちゃうのん?黙って2人で行ってこい!」
ユーコは口では強い口調で言ったが、目は優しかった。
「わかったん?」
「どうなん?」
「わかりました…」
3人はあたしのその言葉を聞くと、顔を見合わせニヤリと笑った。
「そうそうその調子や。名前も誕生日も一緒の2人が船上でのロマン!考えただけでもゾクゾクするやんなあ。まるで映画みたいやわあ」
「そして離れ離れだった2人を唯一結ぶのは、沖縄銘産のブルーシールアイスクリームだった」
「キャー!ステキ―!」
ユーコが頭の中で映画をでっち上げてうっとりとし、トモちゃんがその解説者になり、ミヤちんが勝手にはしゃいだ。
一体何?アイスクリームがつなぐ縁って?
結局珍しいあたしの恋愛話が楽しまれているだけかも?
こんなやり取りもあたし達は普通に食事をしながらできるのだ。なるたけ、ナツくんたちに聞かれないように注意もしたけどね。
食後のブルーシールアイスクリームも美味しかったけど、食べれば食べる程ドキドキが増してきた。それに少し怖い。昨日の船で星を見た時は、こんな感じじゃなかったのにどうしたんだろ?
怖さを先延ばしするために、なるだけアイスはゆっくり味わって食べよう。
「ナッちゃん、すくったアイスをそんなに睨みつけてどうするん?アイスがスプーンからポタポタ落ちてんで」
「うん」
あたしのそんな引き延ばしの努力も虚しくデザートを食べきってしまった。ついに店を出る時が来たのだった。
「お待たせ〜」
ユーコが満面の笑みを浮かべながら、ナツくんたちに声を掛けた。
「おっ!いよいよか!」「さあ、ナツ頑張って来いよ」「引っ叩かれんようにせなな」
待っていたみんなから、ナツくんは激励を受けた。
そして、あたし達8人はみんな揃って店を出た。
店を出るとあたしはナツくんから見えないようにみんなの後ろに控えていた。でも、直ぐにユーコに背中を押されて前に出された。
「じゃあ、ナツを頼みますね」
一番大人びた子が言った。
「は、はい」
思わず返事しちゃった。
「ナツ、オレらフェリーの子らが待ってるから行くわ。お前、昨日みたいに泣いて帰ってくるなよ」
「アホ、ナッちゃんの前で恥ずかしいこと言うな!」
「ナツくん、ナッちゃんを頼みますね」
ミヤちんが珍しく真剣な目で言った。
「は、はい」
ナツくんも緊張気味に答えた。
「そしたら、あたし達はホテルに帰るね。ナッちゃんも泣いて帰って来んようにな。ちゃんと聞きや」
トモちゃんがあたしの胸に指を指しながら言った。
「うん、ちゃんと聞くから」
自分の心に。
「じゃあ、解散な!ナッちゃんの友だちもバイバイ」
ナツくんの友だちが言ったのを機に、あたし達は3組に別れてそれぞれの別の方向に向かった。