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私の夏
【青春 恋愛小説】

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船でよく有る事-1

 あたし達は狭い二等船室の中で、ひしめき合いながら荷物整理を始めた。そんな中で、それが聞こえてきた。

「しゃーけどこの状態で32時間はキッツイのう!」

「お前、船はサンフラワー言うてたんちゃうんけ、なんやねんこのちっちゃい船は!」

「ムッチャ狭いやんけ!」

「ツアーのおっさんはサンフラワー言うててんけどな」

「ツアー会社に騙されたんちゃうけ!」

「普段からボーとしとるからや!」

「お前ほどとちゃうわボケ!オレは最初から飛行機がエエ言うてたやんけ!」

 うっ!ガラわる!なにこれ?噂に聞く河内弁?

 怒鳴り合うような男4人の会話を聞いて、荷物を整理していた手が一瞬止まってしまった。眉をひそめながら仲間を見るとユーコとトモちゃんも同じ様な顔をしていた。

 そして同じ感想を確認し合うと、お互いを見ながら引きつった笑みを浮かべるのだった。

 あたしは他の人はどうなのかな?と思いさらに顔を巡らすと、黄色い髪の女の子たちは動じることなく『キャハハ』とハシャイでいたし、バカップルは自分達の世界に入ったままだった。この人たちには今の会話はノーマルみたいだ。

 そしてあたし達の中では、ミヤちんだけは全く動じることはなかった。

「なあなあ、もう直ぐ出港やから外に出ようよう」

 何が嬉しいのかニコニコと、いつものマイペースぶりを発揮した。ミヤちんはどんな環境下でも楽しむことを忘れないのよね。

 賛成だ。こんな空気の薄い所に居るより外の方が数段いい。金魚みたいに酸素不足でパクパクする前に外の空気を吸いに行こうっと。

 あたし達はこぞって部屋から出たんだけど、入口付近に陣取る男4人の方は極力見ないように心がけたのは言うまでもない。

 そして甲板に上がった途端、あたしは堰を切ったように声を出した。

「何あの4人?ガラわるいな―、ユーコもトモちゃんも顔が引きつってたで」

「舌が回ってたもんな。そう言うナッちゃんもヒクヒクしてたで」

「あんなしゃべり方って新喜劇だけやと思ってたわ。もうビックリ!宝塚では余り聞かれへんわ」

 ユーコもトモちゃんもあたしと同意見だったが、ミヤちんだけは違ったみたい。

「何のこと言うてんの?」

「『何のこと』ってミヤちん、あの4人のことやんか」

 あたしは驚いた。

「方言やから仕方ないやんか。一々気にせんでいいって」

「でも、普通の会話に舌回さんでもいいやんか。スペイン人でもそんなに舌回さへんよ」

「旅行が嬉しくてハシャいでるだけやと思うわ」

「子供や有るまいし、いい大人があんな狭いとこでハシャがんでもいいのに」

「しっ!ナッちゃん、その4人が出てきたよ」

 ユーコがささやくように言った。

 ギクッ!

 船内へと続く通路を恐る恐る振り向くと、問題の4人と黄色い髪の女の子3人が出てきたところだった。

 すると甲板に出たところで黄色い髪の女の子の1人が、物怖じすることなく問題の4人
に声を掛けた。

「すいませ〜ん、写真撮って貰ってもいいですか?」

 うっ!さすがヤンキー娘、怖いモノがないのね!

「エエよ、何処で撮ろ?」

「舳先の方がエエわ」

「そうやな、船で写真言うたら舳先やで」

 そんな会話をしながら4人と3人は私達の横を通り過ぎ、舳先の方へ向かって行った。

 それを見送り、あたしはホーと息を吐き出した。

「うはっ!ナッちゃん、何息止めとるんよ」

 そんなあたしを見てミヤちんは楽しそうに茶化した。

「ガラ悪いのがうつったら困るやん」

「きゃはは!奴らはバイキンか!」

 ミヤちんが笑い声を上げた途端、4人の内の1人がこちらにクルリと向きを変えた。濃い目のサングラスを通して、睨まれているような気がする。

 いっ!聞かれた?

「あっ!オレ煙草買おてくるわ、先に行っといて」

 気のせいだった。あたしの心配を余所に、男はそう言って再びあたし達の横を通り過ぎ船内へと向かった。

 それを見送り、あたしとミヤちんはホーと揃って息を吐き出した。

「ミヤちん、あんたも息止めてるやん」

「くそ〜、さすがのあたしでも、あの不意打ちは対応できんかったわ」

 オイオイ、お前は何を悔しがってる…

「でも、今のサングラスの人が一番かな」

 ミヤちんの目が輝いた。

「何が?」

「もう、解らん子やな、あの4人の中で一番カッコいいやんか」

「へっ?あんなガラの悪そうなのを、そんな対象によくできるなあ」

 あたしは素直に驚いた。

「ホントホント、さすがミヤちん、感性が飛び出てるなあ。でも、こんな狭いところで焦らんでも沖縄に着いてからでいいやん」

「そうそう、ミヤちんの感性はいつも飛び出てるけど、いつも何事もなく終わって、急降下で落ちて行くからなあ」

 トモちゃんの言葉にユーコが受けた。そして、とどめ役はあたしだ。

「ホンマや。毎度毎度かわいそうなことで。でも、地に落ちた感性が踏まれてもあんたは不死身やもんなあ。その図太さが羨ましいわあ」

「あんたらいい加減にしいや」

 ようやく、いつものペースでいい感じになったと思ったのだが…



 


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