絶望の奴隷少女-2
少女がつながれていたのは、そのうちの一軒だった。
ここに揃えられているのは、見た目がいまいちだったり、健康を患っていたり、年齢が高すぎる女たちだ。よって値段は他より格安に設定されている。
どの店の奴隷達も、怒りと悲しみの混じった暗い表情をしているが、この店の女達は特に落胆していた。
下働きの女中や、農家の雑役用に買われるのは、この店では幸運な部類だ。
運が悪ければ、質の悪い売春宿で使い捨てられる。もっとも運が悪いのは、特殊な性癖をもつお客に買われて、拷問死だ。
そういうわけで、少女は絶望のどん底にいて、陰鬱な考えに浸りながら、虚ろに両手を戒める木製の手枷を眺めていた。
前も後も長く伸ばした黒髪が、小柄な身体にまとわりついて、彼女をいっそう不気味に貧相に見せている。
「処女が欲しい?だったら、三軒隣りの店にいったらどうだい。綺麗どころが並んでるぜ。目ン玉飛び出る値段だけどな」
長く伸ばした前髪ごしに、奴隷商人が客と話しているのが見えた。
ちなみに、三軒隣りは高級娼婦用の美しい処女達を取り揃えた店で、ここより奴隷への扱いも格段に良い。
「生憎だけど、そこまで予算がなくって、ここを紹介された。処女だったら、見た目や年齢は問わないんだけど……」
話しているのは、二十代半ばとおぼしき青年だった。
暗灰色の髪は無造作に短く切られ、金色がかった琥珀色の両眼は、どことなく優しげな印象を与える。
彼は襟裳のボタンをいくつか外した白いシャツに、タイを軽く巻いて青いブローチで留めていた。その服装から、北国フロッケンベルクの錬金術師だとすぐにわかる。
大陸のどこでも、大きな町にはたいてい、フロッケンベルクの錬金術師か傭兵がいる。
作物もロクにとれない故国から出稼ぎに来ている彼らは、錬金術師は青いブローチを、傭兵は青いバックルのベルトをしている。どちらもフロッケンベルクの国旗を象ったものだ。
しかしこの青年は、机の前に張り付いて薬品調合よりも、剣でも振っているほうがよほど似合いそうな、長身で逞しい体つきだった。
しなびた小男の奴隷商人は、一見の客を胡散臭そうにジロジロ見上げた。
「兄さん。ぶっちゃけた話、いくら払えるんだ?」
青年の告げた予算は、確かにこの店なら十分に買い物は出来るが、高級娼婦の半額にも満たない金額だった。
「だから、見た目は別に気にしないよ。でも、性格は良いと嬉しいなぁ」
お気楽な調子で青年がおどける。
「これっぽっちで贅沢言わんでくれよ、兄さん。……ああ、そうだ」
何か思い出したといった調子で、奴隷商人は手を叩いた。
「おい、『爪痕』!こっちに来い!」
少女には、ちゃんとした本名がある。しかし、奴隷にきちんとした名など必要とされない。
『爪痕』
数週間前にここに来てから、ずっとそう呼ばれていた。
少女が返事をしなかったのは、ただ自分が呼ばれるだなんて思ってもおらず、反応が遅れたせいだった。
しかし、奴隷商人の方は、そう好意的には思ってくれなかったようだ。
「爪痕!!」
ムチが音を立てて床を殴り、その音に店の奴隷達がいっせいに身をすくめ、避難がましい目で少女を睨む。
お前のせいで、何かとばっちりが来たらどうしてくれるのだ、と。
こんな環境では、心は荒んでささくれ立つ一方だ。
「……」
少女は規則どおり、両足を枷の上に一度すり抜けさせ、後手になってから立ち上がろうとした。
だが、地面に長い時間座っていたせいで、不様によろめいて転んでしまった。
他の奴隷達から嘲りの小さな笑い声が聞え、奴隷商人が苛立たしげに舌打ちする。
「チッ!何やってんだ。さっさと来い」
奴隷商人の水分の少ない手に肩を掴まれ、店先に引き摺りだされた。
薄暗い店内から、急に日の当る場所に出たため、眩しさに目が眩む。
「こいつがお勧めだ。処女だし、まだ若い。なんなら確かめてくれ」
奴隷商人が目で合図すると、屈強な体格の助手が進み出て、後から少女の膝裏に腕をかけ抱えあげた。そのまま両足を左右に大きく広げられる。
この数週間でボロボロになってしまった衣服の下には、もう何もつけていないので、青年の目の前に、秘所が突き出される事になった。
年頃になっても、なぜか少女のそこはいつまでもツルリと無毛のままだった。
一切隠すもののない薄桃色のワレメが、陽光に照らされる。
「……」
前髪に隠れたまま、少女の頬が赤く染まる。
変態!バカ!見るな!
大声で叫んで怒鳴り散らしてやったら、さぞスッキリするだろう。
だが、それをやった奴隷が後でどんな目にあうか、この数週間で何度も見てきた。
だから、黙って唇を噛んで耐える。
「ほら、処女膜がちゃんとあるだろ」
少女の体がビクリと震えた。
ふしくれだった奴隷商人の指が、華奢な花弁を指で割り開いて見せたのだ。
柔らかい媚肉が左右にのけられ、赤い内壁と未使用の粘膜までもが晒けだされた。
青年の視線が、開かれた膣内にじっとそそがれた。
羞恥で死ねるなら、即死してる。