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花火
【女性向け 官能小説】

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線香花火-2

「あ、懐かしい!」

「でしょ?来てくれた子供さんにお土産で配ってるんだけどよかったらもらってやって」

マスターの隣で奥さんがニコニコと笑っている。
早い時間だと、子供連れの家族客も多い焼き鳥屋さんだけある。

「柚季ちゃんとクマちゃんは、おじさんから見たらコドモみたいなもんだから」

マスターは何度訂正しても、私たちのことを学生カップルだと思っているのだ。
私たちが働く店に来たときも、バイトだと思い込んでいたし。
新入社員のクマはともかく、私は勤続12年のれっきとした社員なんだけどなぁ。
一応「主任」っていうカタガキもついてるんだけど。

「ありがとうございます」

私の言葉を真に受けて、奢りますと言うクマを説き伏せ、きっちり割り勘でお会計を済ませて店を後にして歩き出す。

「ねぇ、クマ。せっかく貰ったからやろうよ、線香花火」

「え?マジっすか?これからですか?」

「うん」

「ってドコでやるんですか?」

まさかこの時間に公園で、ってわけにもいかないだろう。
一歩間違えば通報されてしまいそうだ。

「んー、ウチのベランダ?よし、決定。ウチのベランダにしゅーごー!」

「柚季さん酔っ払ってます?」

「まさか、アタシがあれくらいで酔っ払うわけないでしょ?クマのほうが顔真っ赤」

隣を歩くクマのほっぺたをつついてやると、さらに赤くなったような気がした。

「柚季さんのペースに合わせてたからですよ。そんなちっこいカラダのどこでアルコール分解してるんだか」

「肝臓じゃなかったっけ?だからクマはクマのペースで飲めばいいっていっつも言ってるじゃない。それに先輩に向かってちっこい言うな!」

「いいじゃないですか、柚季さんはマスターのコドモみたいなもんらしいですから」

「クマもね」

「オレはマスターのお子さんと2つくらいしか変わんないっすから」

「どーせアタシはオバサンですよ」

「そんなことないですって。柚季さんは可愛いですって」

頬を膨らませる私のご機嫌を取ろうとするクマを困らせながらぐでぐで話をしつつ、コンビニで缶ビールとタバコを買って我が家へ。
クマがここに来るのは初めてじゃないけれど、なんだかミョーに緊張してるっぽい。
エアコンを最強にしてバケツに水をはり、ベランダに出る。

「靴持って他人様んちのベランダって何かミョーなカンジですね」

「あぁ、二股かけてて本命彼氏が来ちゃったからベランダに隠れてて的なカンジ?」

「そういう経験あるんすか?」

「ないわよ。玄関開けたら夫が違う女とイチャついてたってのはあるけど」

「マジっすか…」

近所迷惑にならないよう、囁くように話をする。
あーあ、どうでもいいこと思い出しちゃったじゃない。
黙ってしまった私の顔色をクマが伺ってる。

「さて。どっちからやりますか?」

マスターにもらったのだけじゃさみしい気がして、コンビニで追加購入したのだ。
ベランダだし、やっぱり線香花火だけど。

「買ってきたヤツからにしますか?」

手際良く袋から出して、クマが1本手渡してライターで火をつけてくれる。

「キレイだよね」

「そうですね」

「寂しい感じでイヤ、っていう人もいるけど私は好きだよ」

大のオトナが二人、深夜にベランダに屈み込んで線香花火。
なんだかやっぱりミョーな光景ではあるけれど。

「オレも好きです」

そう言ったクマと目があって笑い合う。
そこからはほとんど会話もないまま、線香花火に火をつけていく。
無言が息苦しいわけではなくて、心地よい静寂。
いつの間にかマスターからもらったものも残り2本になっていた。

「柚季さん、賭けません?」

最後の線香花火を手にしたクマが言った。

「消えるまで玉を落とさないほうが勝ちってこと?」

「そうです。負けたほうが勝った方の言うこと聞く、ってどうですか?」

クマにしては挑発的なことを言うなぁ、と思ったけれど。
単細胞な私は、うっかりその言葉に乗せられてしまった。

「面白そうじゃない。やる」

「オレ、負けませんよ?」

穏やかそうに見えるけれど、負けず嫌いなクマが嫌いじゃない。
そういう私も負けず嫌いなんだけど。

「アタシだって負けないもん」

せーの、でお互いに火をつける。
ほぼ同じスピードで牡丹から松葉、柳へと変化していく。
揺らさないように、二人とも真剣。

「あっ」

散り菊に変わる寸前で、私の火玉は落ちてしまった。

「よっしゃ」

ちょっとうれしそうなクマ。

「あーあ、負けちゃった。とりあえず中入ろっか」

「はい」

後片付けをして部屋の中に入るとだいぶ涼しくなっていた。
靴を玄関へ運び、手を洗ったクマに座っているように促して冷蔵庫から冷えたビールと、凍らせておいたグラスを持ってクマの元に戻る。

「飲むでしょ?」

「じゃぁ少しだけ」

「何かつまみでも作る?」

「いや、結構食ったから腹いっぱいです」

「クマってば、意外に小食だよね。むしろ私のほうが食べてそう」

「あ、それ時々思います。柚季さんって何でも美味そうに食べますよね。ちっこい身体のどこに溜め込んでるんですか?」

「えー?この辺とか、この辺?脱いだらヤバいんです、みたいな?」

わき腹やお腹をつまむ動作をしてみせるとクマが笑った。

「ねぇ、ところでさ。アタシが負けたからクマの言うこときくんだよね?」

「…そうですね」

ふと会話が途切れたところで気になっていたことを切り出してみる。
クマは言うべきか言わないべきか散々言いよどんだあげくに言った。

「オレのカノジョになってください」


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