第7話 陰と陽一-3
「あらあら・・・ごめんなさい冗談よ。もう・・・陽一さんはウブね。さっきの川端さんのお話、本気にしてたの?」
ドレスの女は、若い男の背中を摩りながら介抱していた。
「本当に大丈夫?。少し待ってね・・・すぐお水持ってくるから・・・・・・」
ドレスの女は、急ぎ足でカウンターに向かった。
その間にも、若い男の方は落ち着きを取り戻していた。
すぐにドレスの女は、お盆に水をのせて戻ってきた。
「はい、どうぞ」
若い男は、ドレスの女に水を差しだされると一気に飲み干した。
ついでに、酔い覚ましも兼ねていた。
「もう・・・そんなに慌てないで・・・・・。それともう一つ・・・はい、これ・・・自己紹介だけしておきながら、これを渡すの忘れてました」
ドレスの女は、水と一緒にお盆にのせていた、自分の名刺を手渡した。
水を取りに行ったついでだった。
若い男は、その名刺を丹念に見ていた。
「へ〜・・・玲子の玲って、こう書くんだ。てっきり玲子さんを見てると、綺麗の麗かと思ってました」
「まあ・・・お世辞がうまい事・・・陽一さんは、きっと出世するタイプね。あっ・・・それと・・・お店では私の事、ママで良いからね。陽一さんくらいだったら、本当のママの様に甘えて良いからね・・・・・・ふふ」
若い男は、お世辞を言い慣れてない為か、またもや顔を真っ赤にさせていた。
それを誤魔化すかのように、慌てて背広の内側のポケットを探っていた。
「こ・・・これ僕のです。僕もママに渡すの忘れてました.」
若い男は、背広から皮のケースを取り出すと、自分の名刺をドレスの女に返した。
「あら・・・ご丁寧にどうも。大竹ね・・・大竹陽一さんって言うのね。分かりました。良く覚えておきますね。」
「ありがとうございます。それより、部長遅いですね」
「ふふ・・・きっと今頃、奥さんに電話してるのよ。私達に、そんなとこ見せたくないんでしょう。それより、もう少しお話でもしましょう。」
二人はまた、隣り合わせで元の席に座った。
「本当・・・今日は陽一さんに助けられましたわ。川端さんって、本当にしつこいのよ。あっ・・・これ川端さんには内緒よ?」
「ええ・・・分かってます」
「今日だって、陽一さんがいなければ、どうなってか・・・・・・。そうだわ・・・これからは、陽一さんも必ず御一緒して下さいね。」
「多分、そうなると思います。しばらくは、部長の所でお世話になると思いますから・・・・・・」
「良かったわ。これからも、陽一さんが御一緒ならすごく安心できるわ。でも・・・川端さんの下で働くって、大変じゃないの?。会社では、良く分からないけど・・・・・・。何だか、セクハラばっかりしてそう・・・・・ふふ」
「そんな事無いです。会社では、凄く真面目な人なんです。確かに厳しい所もありますけど・・・頑張ればきちんとそれに答えてくれます。だから、今は怒られてばかりだけど・・・いつかは褒めてもらえるようにと、今はがむしゃらに頑張るだけです」
「へ〜・・・以外ね・・・あの川端さんがね。確かに酔わなければ良い人なのよ。だから、お酒なんて飲まなければ良いのに・・・水商売の私が言うのも何だけどね・・・・・ふふ。でも、陽一さんてお若いのに御立派よね。おいくつになられたのかしら?」
「僕ですか?・・・最近、23になったばかりです。今の会社には、大学を出て入ったばかりですから、3ヶ月くらいしか経ってません。」
「あら・・・新入社員さんね。でも・・・今が大変な時期なんじゃないの?。一生懸命頑張らないとね・・・・・・・」
「ありがとうございます。確かにママの言う通りに今は苦労はありますけど、部長を信じて頑張ります!。あの人の下で働いた人は、ほとんどの人が出世してるんです。だから・・・尊敬もしてるんです!」
「川端さんも幸せね、陽一さんの様な部下を持って・・・・・・。それじゃあ必ずご出世して下さいね。私も応援してるから・・・・・・」
「ええ・・・もちろんです!。その時は、今の部長の様に、必ずこのお店に僕の部下を一緒に連れてきます!」
「本当に陽一さんは、仕事のお話をされると、生き生きとされて頼もしいわ。何だか年増の私でも惚れちゃいそうよ・・・・・・・。そうだわ・・・陽一さんが御出世された時は、何か御褒美しないといけないわ・・・何が良いかしら・・・・・・」
「そんな・・・気を使わなくて良いですよ。逆にプレッシャーになっちゃいますよママ」
「そうね・・・私と一緒に夜を過ごすってどうかしら?・・・忘れられない夜にしてあげるわよ・・・・・・ふふ」