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富子幻舞
【歴史物 官能小説】

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富子幻舞-29

( !!・・・いつの間に。でも、この演舞に演目は・・・・)



富子には見覚えがあった。

目の前で舞を舞う演舞の動きの1つ1つ、


そして動きに鋭さを感じさせる切れ、



独特の足の運び方、



何より演舞者が被っている“大悪尉”の面――――







「勝元殿・・・・・?」



相手を見上げる形で腰を下ろしている富子の口から男の名前が呟きと共にこぼれだす。


しかし相手はそれに一切の反応を示さぬまま、
ただ鼓の音に合わせて舞い続けていた。





―――ポン、ポン、カポン・・・・



鼓の音は未だにどこからか聞こえてきている。


その調べに合わせるかのように、
“大悪尉”の面の人物は
富子の眼前でその動きを止めない。



(・・・・ああ・・・・)



思わず富子の口からため息が漏れる。


軽やかな足取りで舞い踊る演舞者、

どこからか聞こえてくる鼓の格調ある響き、

そして吹き付ける風に乗ってくる紅葉の葉と、独特の甘い香り。



いつしか富子の五感は、周囲から伝わってくる異様で独特の空気に酔わされたような気分になっていた。

一種の酩酊感。

しかし富子にとってみれば、それは決して不快なものではなかった。

いつしか白い頬が赤みがかり、うっすらと熱を帯びてきたのが分かる。




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