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富子幻舞
【歴史物 官能小説】

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富子幻舞-28

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―――サァァァ・・・・・



一陣の風が吹き抜け、
それに乗せられて今まで地面に積もっていた紅葉が、
まるで真っ赤な帯のようになって富子の周りをうねるように舞い踊っている。



「ここは・・・・・」



目を覚ましたばかりの富子は戸惑いながらも辺りを見回す。



そこは確かに北山であり、
富子自身いつの間にかあの能舞台の中心に横たわっていたのだ。



(ここは・・・確かに、あの北山の能舞台。だけど・・・・・何かが違う)



気づけば勝元の姿はどこにもない。

思わず周りを見渡しても
周囲は見える範囲一帯全て紅葉の並木一色であり、
人や動物の気配を感じさせるものはない。

しかも空はぼんやりとした紫がかった色合いであり、確かに見えていた筈の北山周辺の山々や小さく見えていた人里等も見えなくなっている。

ただただ辺りから伝わってくるのは、異様な薄暗さと人界のものとは思えぬ不気味な空気であった。



しかも富子の鼻孔をくすぐるかのように、
甘く色濃い独特の香りが風に運ばれ、彼女の周囲に漂っていた。



(これは・・・夢?それとも、別世界?)










―――ポン・・・ポン・・・・ポン・・・・



―――ヨオッ・・・ハッ・・・・ヨオッ・・・ヨッ



(これは・・・・)



どこからともなく鼓の音が聞こえてくる。

思わず音のする方を探そうとした富子は、

自分のいる能舞台の上で能面をつけた演舞者が鼓の音に合わせて踊っていることに気づいたのだった。




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