太一_はじまりの話-4
「何?なした?」
『あ…えっと……』
専攻の違いから大学は別々になったけれど、同じ市内を志望し見事に合格した。地下鉄にして二駅分の、本当に近距離。今後つき合っても会いやすいように、と自分の進路をそんな打算込みで考えた。いま思えば、若さ故にできる選択だ。
なのに……
『―――あー……悪ィ、忘れた。』
「えー、気になんじゃん。」
『うっせー、お前が上靴なんか忘れてっからだよ。』
「それ、五分は前の話なんだけど。」
結局、卒業式って人生の区切りですら俺は気持ちを伝えることが出来なかった。
『ははっ、悪ィ。』
「素直かよ。」
怖気づいたんだ。
こんな風に言うのはアレだけれど、俺はいままで望まなくとも人に好かれてきた。告ったことがない訳ではないけれど、相手は安パイだけ。感情をあまり表に出さない朱里に自分がどう思われているのか想像した途端、答えを聞くのが怖くて背筋がざわついた。
(……まぁいいさ。これからだって、いつでも簡単に会えるんだから。)
そう言い訳して、気持ちも桜前線も追いつかないまま学ランの生活は終わった。大学に入り、二人の間に距離が出来るとも知らずに。