委員長-2
弾かれる様に逃げ出した男とは対照的に、委員長は憮然と彼らを見据え、
暫く外で待つ様に言い置いた。
服を整えた委員長に招き入れられ、委員達は何も言えず身を強張らせていた。
「ごめんなさいね 変な所を見せて」
困った様に片頬をあげたいつもの表情を見せられると、今見た事が悪い夢の様に思えてくる。
「いっ いえ・・・っ」
「説明、させてもらってもいい？」
いやとは言えなかった。
「簡単に言うと、ね、 別れ話、なの」
「はい・・・」
「誤解しないでほしいんだけど、さっきのはレイプじゃないのよ
彼は、セックスとなると、ああいう束縛的な愛仕方しかできない人なのよ」
「それで・・」
愛情の不一致から別れる事になったのかと、
合点がいった表情を浮かべる彼らに委員長は、手を振って否定した。
「違うのよ」
「？」
「確かに切り出したのは私からなんだけど、でも、彼のそういう所も含めて好きだったから
それが原因なんじゃないの。
私達、３年生でしょう？ だから、受験に本腰を入れる為に・・・そういう事なの。
お互いを大切にする事って大事でしょう？
それは、彼も納得してくれたんだけど・・・男性って」
そこで初めて、恥じらいの表情を見せた委員長は、
言いにくそうに切った後、そっと言葉を続けた。
「・・・最後に、一発、ていう発想があるみたい、ね・・それで」
「・・・」
「・・・ああいう事になってたの」
「・・・」
最後の一発どころか、最初すら体験した事のない委員達は複雑な思いで思考を組み立てる。
「あの・・」
一人が恐る恐る発言した。
「なに？」
「・・・さっきの言葉は・・・それじゃあ・・・」
「え？あ？ああ、アレ？ ああ言うと彼が喜ぶから、マニュアルみたいなものよ？
ふふっ、まさか本気にした？ ふふふ」
あれだけえげつない言葉を吐いた口が、今や蕾の如く可憐な微笑みにほころんでいる。
「・・・・・・」
その現実に絶句する委員達を、先ほどまで欲情に濡れていた瞳が
まるで穢れを知らぬかの様にあどけなく見つめる。
「？ どうしたの？」
「・・・あ、あの 俺達」
「？」
「なんて言ったらいいか・・・ただ、驚いてしまって・・・」
「うん、・・・そうよね、仕方ないよね ホントに、ごめんね」
「違います！」
俯いた途端、突然強い語気が投げかけられ、委員長は驚いて彼らを見上げた。
皆、切なそうに顔を歪めている。
「みんな・・・」
「い、委員長は・・・悪くない。 悪くないと思います・・・」
「・・・」
「でも、嫌です・・・」
「・・・え？」
「嫌です、委員長が・・・あんな風な・・・嫌です・・・！」
涙で一杯になった瞳で見つめられ、彼女はどうしたらいいか分らなくなった。
ただ、男の子が泣くなんてよっぽどの事で、自分はそれほどの事をしてしまったのだという罪悪感が
善良な彼女の胸を締め付けた。
「わ・・私、どうしたら、いい・・・？」
「委員長に・・・戻って下さい・・・！！」
「俺達の知ってるいつもの委員長に・・・！」
「俺達、なんでもします。 頑張ります、だから、お願いします・・・！」
「・・・みんな」
あんな姿を見せたのは自分なのに、彼らは力になってくれるという。
えづきなが訴える彼らの姿に、委員長は胸を打たれた。
「うん、戻るわ。風紀委員長として恥じない私に・・・ありがとう、みんな」
しかし、その自分の決意が彼女自身を淫獄の火で焼き尽くす事になるとは、
この時、誰も予想だにしなかった。