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THANK YOU!!
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-7



「・・え・・?」
「八神、出口まで走るぞ!!」
「は?・・って、ちょ、ま・・わっ!!」

走るぞと声を一応かけておいて、瑞稀の言葉も待たずに勢い良く走り出した拓斗。
瑞稀は展開についていけず、ただ引っ張られる腕につられるように足を走らせるだけ。
夏の生暖かい風が、頬に当たって過ぎていく。
次第に、瑞稀の視界いっぱいにオレンジ色の光が差し込む。
それは、大通りを照らしている街灯のモノ。
結果、瑞稀は引っ張られるまま、凄いスピードで公園をでて大通りに出れた。
公園の入口で手を離された瑞稀はすっかりあがってしまった息を整える。
整えながらも、拓斗に目線を送る。

「ちょ、あの、拓斗?」
「ん?どした?てか大丈夫か?」
「大丈夫か聞く位なら走らせなんなよ!?しかもいきなりだし!!」
「いいじゃん。面白かったし、な?」
「どこが!拓斗が楽しいだけでしょーが!・・もう・・」

そこまで文句を言うと、気が済んだのか笑い出した。
瑞稀の笑顔を久々に観れた拓斗は嬉しさを零した。

「やっと、笑ってくれたな」
「え?・・あ・・」

拓斗の喜びが滲んでいる言葉で、自分が笑っている事に気づいた。
思わず、手で口を塞ぐ。

「ずっと・・笑ってくれなかったから。避けられてる訳じゃないんだけど、気まずかったし。」
「・・ゴメン・・」
「・・八神のことだから、俺が怪我したこととかを自分のせいにして責めてるんだろうなって思ってた。」
「・・・・」

瑞稀は何も言わなかった。
事実だから否定もできないが、肯定もしづらい。
拓斗は、気にせず続ける。

「別にあれは八神のせいじゃない。正直言うと、実は怪我しなくてもお前を守れたんだ。」
「え!?」
「そういうのを、武道でやるんだ。だから、出来たはずだったんだけど・・やっぱ、身体が動かなかった。」
「・・・・。」

悔しそうに告げる拓斗を見て、ああ、本当なんだなと思う。
こんなに悔しそうな拓斗は初めて見るから。

「ゴメン。だから、お前のせいじゃないんだ。」
「でも・・っ、私が拓斗に甘えさえしなきゃ・・菜美があんなに・・」
「笹野のことも・・俺、気づいてた。八神に対して冷たい目で見てたこと。」
「え!?うそ!?」

本日二度目。
拓斗の大告白に、戸惑いと驚きが頭の供給量をオーバーしそうだった。

「でも、大したことにはならないだろうって思ってた。そしたら・・お前が閉じ込められた。ケガもした。」
「・・・」
「俺は、分かってたくせに何も出来なかったんだ。そんとき、自分をメチャクチャに責めた。だから、強がって笑顔を見せる八神の病室に残れなかった。」
「・・・」
「でも、柊がプライドを張ってるだけだって言うし・・やっぱり、八神を放っておけなかった。もし俺が病室戻って何か出来るなら、やろうって決めて・・だから病室に戻れたんだ。」
「・・・・プライド・・」

その単語に、ココロのどこかが引っかったような気がして、繰り返し呟いた。

「あぁ。結局、目の前で自分のやらなきゃいけないこと、やりたいことがあんのに、過去の事を理由して進もうとしないのは・・プライドを張ってるせいなんだよ」
「・・・」
「俺はお前にもう怪我させたくなかった。もし、誰かの手で怪我させられそうになったら身体を張ってでも守ろうって決めたんだ。」
「・・・・」
「だから、あの時、俺はお前を守った。“かばった”じゃなくて、“守った”。
俺、あの時、本当は心から安心してたし喜んだんだ」

最後の言葉に意味が分からず、思わず首をかしげる瑞稀。

「やっと、お前に何か出来た気がして・・さ。まあ、俺の勝手な感情だから、お前が深く気にしなくていいよ」
「・・・・」
「とにかく。俺は、したくてお前を守った。それで何か出来た気がして嬉しくなった。
あの時の俺には、それが一番の選択肢だった。そのことで、誰かが誰かを責めるのは許さない。
それがたとえ、自分を責めている八神でも」

そう言い放った時の拓斗は真剣そのものの表情で・・瑞稀はいけないと思いながらも、見惚れてしまった。
そして、改めて言葉の意味を理解すると、闇の中にした黒い自分が姿を消していくのが頭で分かった。
あれは、自分のプライドの塊で生まれた存在だったんだ。
そう一人で納得すると、目の前にいる拓斗に向き直った。


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