THANK YOU!!-2
瑞稀と拓斗が秋乃へ静止の言葉を叫ぶが、間に合いそうもない。
本当なら、身体を引っ張って止めたいのだが、瑞稀は拓斗の左手を両手で、
拓斗は唯一空いている手を瑞稀の肩に掴んで離そうとした為に、手が伸ばせなかった。
「そこまでよ」
「・・!!」
あと数センチで菜美の顔を殴る予定だった秋乃の手は、横からつかまれた。
秋乃が顔を上げると、そこには息を切らした担任である中岡先生が立っていた。
入口には、同じく息を切らした千晴が今にも襲い掛かりそうなのを抑えている千晴のクラスの担任。
「・・中岡先生・・」
「四人が戻らないから、心配で先生たちで探してた時に木ノ瀬さんに屋上手前で呼ばれて来てみたら・・まさかこんなことになってるなんて」
「先生、これは・・!」
瑞稀が慌てて弁解しようとすると、中岡先生は今までに見たことがない怖い顔になった。
「悪いけど、アナタたちの弁解論は聞けない。アナタたちは怪我をした被害者よ。
担任として、大人として、放っておけない。」
「・・・・」
その言葉と表情に気圧された瑞稀は、黙り込んだ。
拓斗も、事の重大さが分かったのか、瑞稀の肩をつかんでいる手に力を込めた。
「・・離して」
秋乃は、今もなお、掴まれたままの手を解放させてもらうために思い切り身体を振って、中岡先生の手を振り切る。一度中岡先生を睨むと、菜美に向き直る。
その表情は、殺気が上手く隠せていなかった。
「・・・許さない。」
「・・秋乃・・」
普段とは全く違う様子の親友に、戸惑いと恐怖を感じている瑞稀から出た声は、少し震えていた。拓斗も同じようで、頬に冷や汗が一筋流れた。
「柊さん、気持ちはわかるけど止めなさい。友達思いのアナタまで加害者にしたくない。」
「・・・っ・・」
中岡先生の低い声で告げられた言葉に、秋乃は悔しそうに顔を背けた。
そして、瑞稀を見る。
秋乃の視界に捉えられた瑞稀は、悲しそうに顔を歪めていた。
瑞稀は、拓斗の左手は離さないまま言った。
「秋乃。ゴメン・・、もう、いいよ?もう、傷つかないで。」
「・・・・瑞稀・・」
顔を伏せた秋乃の瞳から、涙がこぼれ落ちた。
ずっと、気を張っていたんだろう。転校してきてからこんなことばかりだった気がする。
秋乃に、申し訳無いなと思いながら、自分を心配してくれたことを嬉しく思った。
それと同時に、こんなに秋乃の心を傷付けてしまったことを悔いた。
瑞稀は拓斗の手を離すと、秋乃の前に立った。
「・・秋乃。ゴメンね」
「・・・瑞、稀・・」
「ゴメンね・・」
謝罪を続ける瑞稀に抱きついた秋乃は泣きながら首を横に振るのに精一杯だった。
本当は、ギュッと抱きしめたかったが、自分の右手が赤い血に染まっているので、秋乃につかないようにグーの形にして抱き締めた。
その様子を、その場にいた全員が見守った。
傷ついて、傷つけられて・・そんな苦しみの一学期が終わった。