カレーを食べに-1
ある日のこと。
繁華街の雑踏をひとりの女性が歩いていた。
時刻はちょうどランチタイム。軒を連ねた飲食店からさまざまな料理の良い香りが漂ってくる。
彼女は思う。
1日3回の食事のなかで、なによりも大切なのはお昼ご飯だ、と。
朝ご飯なんて時間に追われて正直何を食べたかもよく覚えていないし、何だったら別に食べなくてもかまわない。晩ご飯のときは、だいたい仕事から帰ってきてぐったり疲れている時間帯なので、母親が出してくれる食事を坦々と咀嚼するだけ。食事が出てくることに感謝するとかしないとかそういうことではなく、それは出されたものを食べるという受身の行動に過ぎない。
自分で食べるものを極めて能動的に選ぶという行為。そして選んだものを食すという時間。それは実家で暮らす彼女にとっては非常に大切であり、また貴重な時間なのである。