カレーを食べに-5
「いやー、フル食べるとかありえないっすよ!ハーフでもね、もう満腹!!俺、これ以上食えないっすもん。ほら見てくださいよ、サラダも食べきれなかったし」
もうひとりのリーマンは彼女のほうをちらりと気にして、小さな声で「ああ、そうだな」と答えていた。気遣いができるって素晴らしいですね、ちょっと後でゆっくりお話しませんか、と彼女はナンをほおばりながら思う。でもその彼も、ハーフサイズを食べきった後苦しそうにしている。
長い闘いもついに終焉を迎えるときがやってきた。
彼女はギターサイズのナンをほぼ完食したのである。まわりの客たちはもちろん無反応だが、彼女の脳内では架空の観客たちから割れんばかりの拍手とスタンディングオベーションの嵐が巻き起こっていた。
やった・・・。
ちょうど仕事のお昼休みも終わる時間になり、彼女はなにか大きな偉業を成し遂げたような気分で店を出た。
恥じらいなど捨て、食べたいものを食べる。そして注文した以上は、たとえ予想を遥かに超えるものであったとしても責任をもって全てを食す。それは自分の壁を打ち破る行為のひとつに違いない。
爽やかな気分のまま職場に戻って午後の仕事に打ち込み、帰路につく彼女。夕陽を背にしたその後ろ姿は神々しくさえあった。