鶴女房-5
おつるさんの美しい顔立ち。
おつるさんの綺麗な髪。
おつるさんのきめ細かい肌。
おつるさんの白い太腿。
おつるさんの秘所。
清楚なおつるさん、淫乱なおつるさん。
与平はおつるの全てで頭の中でいっぱいだった。
切ない声で自分を呼ぶおつる。そして自分もまた彼女の名を心のなかで呼ぶ。
頭の中で、彼女の秘所を弄る右手を自分のゴツく毛の生えたものに置き換える。
自分は彼女の華奢な体を後ろから抱え、割れ目を指先で撫で回していた。
『おつるさん。ここが気持ちいいんだろ?』
耳元で囁く。
『ああ! だめです……与平さまっ!』
現実の彼女も自分の想像に合わせて受け答えした(かのように感じた)。与平は、今まさに彼女を犯しているかのように錯覚し、ますます興奮した。
戸の隙間から女の痴態を覗きながら発情した猿のように、自らの性器を擦り続ける男。
その様相はなんとも不埒であったが、当人達にはまるで自覚は無い。
(も、もう駄目だ…出る……!)
与平の我慢の限界が超え、煩悩を解き放たんとするその時。彼は三度(みたび)、肝を潰す事となった。
「覗いてしまわれましたね? 与平さま…」
おつるをずっと凝視していた与平は彼女と初めて目が合う。
――その刹那、与平の中の時間が止まる。
彼女は続けざま言った。
「あれだけ申したのに…。約束を破ってしまわれたのですね…」
「ひっ!」
与平は、背中から外気のものとは明らかに違う寒気を感じた。
火照った熱は、氷水を浴びせられたように急激に冷め、体中から垂れていた健康的な汗は不快なものへと変わる。
与平は反射的に身を翻した。そして、脱兎の如く駆け抜けた。
とにかく、この気まずい状況から一刻一分でも早く逃げ出したい、その一心で。